Jリーガーとして、公式戦通算360試合105得点。関西サッカーリーグ1部を経て、2021年にサッカー選手としてのキャリアを終えた原一樹(はらかずき)さん。さまざまなクラブでサポーターに愛されたストライカーは、仲間からパスを受けゴールを決めていた頃と同様に、人との縁を大切に新たな道へと進んでいる。

転機となった、チーム得点王での契約満了

現役時代と変わらぬ体型を維持する原さん

プロ7年目の2013年。原さんは当時J2にいた京都サンガF.C.で、中心選手としてJ1昇格を争った。惜しくも達成できなかったものの、ゴール数はキャリア最多かつチーム最多の12得点。年俸が上がるだろうと、期待していた。ところがチームから告げられたのは、契約満了。「レクサスを見に行ったりもしていたんですけれど、燃費を考えてすぐプリウスに乗り換えました」と笑う。

幸い同じくJ2のギラヴァンツ北九州へ入団できたが、この京都との契約満了が、36歳まで現役を続けられたきっかけとなったという。

「今日が最後かもしれないという危機感が生まれ、北九州からは食生活、身体のメンテナンスも徹底しました」

ゴールにこだわり続け、ギラヴァンツ北九州での3年間で公式戦39得点。2016年には16得点とキャリア最多を更新した。

研究員の1人として、ストライカー研究所を運営

その後、カマタマーレ讃岐、ロアッソ熊本と渡り歩き、現役最後の2年間は、おこしやす京都AC(関西サッカーリーグ1部)でプレー。引退後はその京都を拠点に、さまざまな活動を行っている。

そのうちの1つが、自身が立ち上げた「ストライカー研究所」。データや練習方法でゴールは取れるという考えから、自身も研究員の1人として、各所に出向きストライカーレッスンやオンラインレッスンを開催する。重要なのは順を追って練習すること、だという。

ストライカー研究所の研究員を務める

「シュートで大切なのは強烈さではなく、ペナルティエリアの中から正確に蹴ることです。そして足し算ができるから引き算、引き算ができるから掛け算に進むのと同じで、練習を繰り返し少しずつレベルアップすること。例えば斜めからのシュートであれば、ファーサイド(遠いサイド)に蹴るのが足し算。できるようになったら引き算としてニアサイド(近いサイド)に蹴る。そして掛け算としてファーサイドに打つふりをしてニアに決めたり、割り算のループシュートなどに進みます」

日本でよく見られる、ペナルティエリアの外から強烈なシュートを決めようとする練習に、一石を投じている。

真剣な表情で指導する

活動の根底にある思い

ストライカー研究所の他にも解説者、ラジオへの出演など精力的に活動する原さんが、引退後最初に行ったのはサッカーイベント。原さんが「一番の天才」だと言う小野伸二選手(北海道コンサドーレ札幌)を京都に招き、100人の子どもを無料で招待した。

根底にあるのは「喜びを作り、提供したい」という思い。現役時代から、サポーターやチームメイトの喜びのためにゴールを、と考えていた原さんらしい考え方だ。その先にあるのは「人の輪」という豊かさ。実際におこしやす京都ACのチームドクターを務める「なか整形外科」など、現役時代から育んできた人とのつながりが、イベントでの多くの協賛につながっている。

シュートについて指導。子どもたちにとって最高の見本だろう。

また、先日原さんは、経営者の人たちに向けて講演を行った。怖さもあったが、だからこそ自分の力になると信じ、挑戦した。何事においても考えるのは、自分になにができるのか。ベクトルを自分に向けることで、成長できると確信している。

現在は大きな目標を探しながら、1つ1つの仕事に励んでいる。「ブレブレな社会人1年目の、オールドルーキーです」と原さんは笑う。それでも「大きな目標は掲げられていないけれど、子どもから大人まで点を取る喜びを味わせてあげたい」という思いに、人間性が表れている。

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