時代の変化とともに多様化している、人々の価値観や生き方。そんな潮流の中でいま、「夫婦」や「家族」の形も改めて見つめ直されているように感じます。
今回は「別居婚」を採用して8年が経過したという藤原華さんに、別居のきっかけやメリット・デメリット、夫婦間でどのように合意が行われたのかなど、リアルな声を聞きました。

生活リズムが違い過ぎた結果、別居を提案

「別居の提案は、私から行いました。提案するために夫のスケジュールを押さえて、プレゼン資料を用意して。プレゼン時、質疑応答にしっかり対応したこともあり、夫からは二つ返事で同意をもらうことができました」

華さんがSNSやブログの発信で使用している本人のイメージアイコン(藤原華さんより提供)

そう話すのは、編集者や写真家として幅広く活躍の場を広げている藤原華さんです。藤原さんは20代半ばで結婚。一緒に暮らし始めたものの、お互いの仕事時間や生活リズムがまったく合わず、「平日は1秒も顔を合わせない」という、すれ違いの毎日が続きました。

「目的はあくまでも2人のQOLを向上させること。ですが『別居』というワードを夫がどう感じるかは未知数だったので、ネガティブな印象を与えないよう伝え方には注意を払いました」

華さんが用意した別居の提案資料。PowerPoint5枚分にまとめ、5分で提案を行ったそう(藤原華さんより提供)

QOL(=Quality Of Life、生活の質)で図る幸福度や満足感は人それぞれで、数値化はできません。そのため、幸福感といったふんわりした物差しではなく、別居によって何がどれくらい改善されるのかを明確にしたそうです。

「通勤時間が◯時間減る、睡眠時間が◯時間増える、手作りのごはんを楽しめる日が月に◯日増えるなど、これまで2人のQOLを下げていた要因や改善案をわかりやすく提案しました」

別居婚をスムーズに実行するために華さんが作ったTODOリスト(藤原華さんより提供)

夫は「うん、ボクこれ、いいと思う。やってみようよ」と快諾。最初はお試しで1年間の別居婚がスタートしましたが、2022年現在で8年が経過。今は電車で30分ほど離れた場所に、それぞれが部屋を借りて暮らしています。

平日は一人時間を楽しみ、週末は一緒に過ごす

藤原さん夫婦にとって、別居婚で得られたメリットはとても大きなものでした。お互いが自分の職場近くに部屋を借りたことで通勤が楽になった、自分のタイミングで食事や入浴の時間がとれるようになった、睡眠時間がたっぷり確保できるようになったなど、生活の質が明らかに向上したそうです。

仕事を終え、ゆっくりと晩酌を楽しむ一人時間(藤原華さんより提供)

平日は仕事やプライベートの時間を大切にし、週末は一緒に過ごす。「今日は何して遊ぶ?」と連絡を取り合い、少し遠出してサイクリングを楽しんだり、公園でキャッチボールをしたりするのだとか。「ここ最近夫が猫を飼い始めたので、週末に夫と猫に会うのを楽しみにしています」と華さんは話します。

週末、一緒に何をして遊ぶかを考えるのが楽しみ(藤原華さんより提供)

周囲の反応については、「反対されたり、糾弾されたりすることはありませんでした」と華さん。“良い”や“悪い”で判断することなく、「好きなように、幸せに生きていてくれればそれでいい」と受け止める“優しい無感心”を周囲の人たちから感じたのだと振り返ります。

「世の中には『こうあるべき』という考えがたくさんあり、もちろん社会規範になっている側面もあります。でも、『こうあるべき』という当たり前は、人が自由に生きることの足かせにもなりうると思うんです」

デメリットやリスクは、事前に想定しておく

別居婚には、具合が悪いときに看病し合えない、ちょっとした助け合いができないことなどのデメリットがありますが、藤原さん夫婦はそれらを事前に想定していたことで、それほど大きなトラブルもなく暮らせているそうです。

ほかにも災害時の対応などがデメリットとなりそうですが、それに対しては次の2つの方法でリスク管理していることを教えてくれました。

「一つは『離れ過ぎないこと』。交通機関が万が一まひしてしまっても、2〜3時間かければお互いの家までなんとか歩いていける距離感を重視しました。もう一つは『防災意識を欠かさないこと』。避難リュックを用意する、安否確認のためにお互いの電話番号を覚えるなど、対策を怠らないようにしています」

抜き打ちで電話番号を確認することもある(藤原華さんより提供)

さらに「別居婚」でネックになりそうな、金銭管理について尋ねてみました。

「確かに一緒に住んだほうが生活費は安上がりです。特に大きいのは家賃ですが、私たちの場合、同居していた頃に半分ずつ出し合っていた家賃と、別居後の個々の家賃がおよそ同じだったので、そこまで大きな負担は感じませんでした」

週末になるとどちらかの家で一緒に過ごす。この日はそれぞれ電子書籍で読書(藤原華さんより提供)

光熱費や通信費は単純に倍になったそうですが、藤原さん夫婦は「お互いのQOLを確保するための必要経費」としてポジティブに考えました。

また別居する際の家電の分配は悩みどころだったそう。購入費をどちらが負担するのか、新しい家電をどちらが使うのかなどは考えておきたい議題です。たとえば調理家電なら、料理にこだわりたいほうが新品を使用するなど、華さんたちは一つひとつ相談しながら決めていきました。

夫婦にとって最適な形は、家族の数だけ存在する

4月22日(良い夫婦の日)に夫からプレゼントされたというアジフライの食品サンプルは、華さんのお気に入り(藤原華さんより提供)

同居も、別居も、夫婦のひとつの選択肢。藤原さん夫婦は、多くの選択肢の中から「別居」というスタイルを選びました。

「もし夫が望むなら今後同居の検討もありえますが、今のところはこのスタイルを続けていく予定です。お互いが好きな場所で、自分らしく好きに生きていけること…それが、私たち夫婦にとって一番大事だということに変わりはありません」

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