「危ないからやっちゃダメ」「こうすれば出来るよ」。思わず子どもたちに大人の正解を言ってしまう場面、家庭のあるあるではないだろうか。小学校教員の竹田亜矢さんも、保護者から声かけの相談を受ける。大人の親切なひとことが、実は子どもの考えるチャンスと主体性を奪っているのだ。「なんとかしたい」という親たちと意気投合した竹田さんは7月31日、大人の口出しを禁止した「子どもマルシェ」を開く。

子ども店長の自由な発想で店づくり

オリジナルハンカチを作れる店。子ども店長(左)が竹田さんの絵を「上手に描くね」と見つめていた

7月24日、香川県多度津町の公共施設「サクラートたどつ」会議室に、親子が集まってきた。「子どものマルシェin香川〜カクブツチチ〜」のリハーサル勉強会に参加する小学生と保護者たちだ。

1週間後の7月31日に、同じ会場で本番のマルシェがある。「大人は口出ししてはならない」という大原則のほか、いくつかルールがあるが、基本的に子ども店長の自由に任されている。大人もサンドイッチや雑貨など14の店を出す。

「ホンモノの環境で、実際にお金と商品をやり取りして、自分で考えながら学んでほしいと思って企画しました」と竹田さんは力を込めた。

小学5年生の男の子はリハーサル会場に、両手いっぱいの段ボールで作った商売道具を持参した。竹田さんから「すごいね」が飛び出す。他の子も思い思いに、準備したマルシェの道具を運搬。これから本番さながらに店を準備し、客役の親子を相手にリハーサル営業してみて改善ポイントをチェックする。

ある男の子は「独楽バトル一騎打ち」と題して、客と店長がこま回し対決する店を企画した。客が勝ったら商品2つ、負けたら商品1つをプレゼントする。負けても商品がもらえるルールに、客役の大人から「優しい店長さん」という声が聞こえた。

コマ回し対決のお店は「回せるお客さんが少ない」ことが課題に

「よく考えてる」関心する大人も

小学6年生の女の子2人が店長の店には、古着や小物が並ぶ。リハーサルが始まる前から、商品をきれいに並べて、店名を手書きした看板を壁に貼り、準備万端。客役の子がやって来ると、接客や代金と商品のやり取りが無事にできた。

女の子店長2人の古着と雑貨のお店は順調にリハーサルが進んだ

竹田さんは、すべての店に客役として顔を出す。キーホルダー作りができる店には、値札と看板が見当たらない。「店長さん、1回いくらですか」と聞くと、小学2年生の男の子店長は「100円です」と満面の笑みを見せて、ぴょんぴょん飛び跳ねながら答えた。思いがけない店長の受け答えに、周りの大人はびっくりしながらも笑顔になった。「笑顔の店長さんがいる店」という評判が、リハーサル会場にあっという間に広がった。

子ども店長の男の子が筆者にくれた手作りキーホルダー

希望がかなわず泣いた子はどうしたか

「大好きなキャラクターの絵を描いて、商品として売りたい」。実は、この男の子店長が心から願っていたのは、そんな店だった。子どもたちが準備を進める中で、主催する大人が著作権の問題に気づき、この子が本当にやりたいことはできなくなった。営業許可が必要な飲食店以外なら、「どんなこともできる」と説明していた大人たち。「どうして、やってはいけないの」と泣いてしまった男の子に、大人は「ごめんね」と謝るしかなかった。

この騒動の後、泣いていた男の子は夜になって母親に話したという。「本当はね、キャラクターの絵を描きたい。だけど釣りのゲームにしようかな。ちょっと考えてみるね」。今度は、この話を聞いた大人が泣いた。

前日にかき集めた段ボールで射的の店も開店

「つい言いたくなるけど、頑張って見守りたい」「進まない子ども同士の話し合いに、口出ししないのって難しいね」

黙って我が子の挑戦を見つめる保護者たちの感想だ。大人の正解を言ってしまいそうな心地悪さを保護者も我慢している。だから、子どもは自分で気づいて行動する「ホンモノの学び」を経験できていると竹田さんは思う。「子どもたちって、考えているんだね」と主催側の大人からも、しみじみと感想が出た。

大人も話し合って学んでいった

リハーサル勉強会で子どもと大人から気づいたことを聞く竹田さん

竹田さんとマルシェを主催するのは、いまの教育を変えていきたいと願う保護者たち。「子どもに任せてしまうことで、考えること、主体的に取り組むことを学んでもらおう」と思いが一致した。

出店料500円や材料費を考慮してどれくらい売り上げられるかを、子どもたちはホンモノのお金で考えており、親から借りたら返すことが前提になっている。

大人側の準備も予定通りには進まず、話し合いが難航してチームに亀裂が入りそうになったこともある。そんな時は、理解しあうことが大事だった。

「同じ出来事でも自分が感じているようには、相手は感じていない。話をして理解してもらう努力をするしかありませんでした」

立場の違う大人たちが集うことで、多様な視点からマルシェを作り上げていった。

子どもたちから感想を聞いて「ふりかえり」。リハーサルを終えた

学んでいるのは、子どもだけでなく保護者や主催する大人も同じ。「今日もおもろいことが、いっぱいあったなー」。竹田さんは、本番のマルシェを前にした最後の「ふりかえり」で子どもたちに語りかけた。「失敗があっても、笑いに変えていこう」

7月31日のマルシェ本番では、子どもと大人のエリアは分けずに、混ぜる配置にすることが決まった。大人の店と一緒くたになって、子ども店長が会場を盛り上げる。そんな光景が竹田さんたちの頭に浮かんだ。あくまでもホンモノの子ども店長として、小学生18人の挑戦が本番を迎える。

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