「ベトナムに親しみをもってほしい」と、ベトナム人留学生と岡山の大学生は、市内のベトナム料理店とコラボして1週間の期間限定メニュー2品を考案しました。2品は当初目標だった100食を完売。そのうちのひとつは、店の人気メニューとして存続が決まりました。なぜ、岡山の大学生がコラボメニューを作ったのか。その思いや背景について取材しました。

岡山県在住ベトナム人は5年で3.5倍

岡山県の在留外国人に関するデータによると、岡山県には現在、ベトナム人1万368人が暮らしています(2020年末現在)。在留外国人の内訳では、国籍別でベトナム人が最多。過去5年間で、3.5倍と急増しています。

コラボを企画したのは、岡山商科大学経営学部の原田亜季さんと浅井太陽さん、環太平洋大学の経営学部のグェン・ティゴック・アインさん(ベトナム・ダナン出身)、岡山大学医学部の高見健也さんら5人。それぞれ異なる大学からグループを結成し、メニュー考案にチャレンジしました。

「アオババ」のベトナム人シェフ・ゼンさん(左から2人目)も協力(提供:原田さん)

この企画は、岡山市内の大学、短期大学、専門学校、そして岡山市と包括的な連携協力に関する協定を結ぶ岡山市外の大学、短期大学の学生を対象とした「学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクト」の補助金事業の一つ。また、学生からの要望を受けて、ベトナム料理店「アオババ」がレシピ監修やメニュー提供で協力しました。

ベトナムのリゾート地・ダナン出身のアインさん。日本語や茶道に興味があり、高校生の時、2年間日本語を学び、奨学金を得て日本へ留学しました。環太平洋大学の茶道部で部長を務めるほか、積極的に日本人の友達を作り、岡山での生活を満喫しています。

卒業後は、東京で広告やマーケティングの仕事に就きたいという夢があります。

アインさんと味見しながら試作する様子(提供:原田さん)

ベトナム料理を日本風にアレンジ

5人が日本風にアレンジしたベトナム料理は、つくねのような「ネムルイ」と、ベトナムの国民的スイーツ「チェー」の2品。アインさんを中心に、日本人にも食べやすいように工夫しました。
ネムルイは、レモングラスに巻いた豚肉の肉団子。野菜と一緒にライスペーパーで巻き、ベトナムの魚醤・ヌクマムにつけながら食べます。

レモングラスの爽やかさが感じられる「ネムルイ」(提供:原田さん)

魚を発酵させた調味料のヌクマムは、ベトナム料理には欠かすことができない存在です。
しかし、ヌクマムは酸味が強い上、独特な風味があり、日本人の中でも好みが分かれるところ。そこで、赤味噌と醤油、砂糖、出汁で作った味噌だれも用意しました。「日本の味噌だれはつくねとよく合い、店に食べに来たベトナム人にも評判が良かったようです」(原田さん)
2品目は「トウモロコシのチェーパップ」。チェーとはぜんざいのようなもので、街角にチェーの屋台が並ぶほど、ベトナムの国民的スイーツとして人気です。具は甘く煮た緑豆や小豆、サツマイモ、バナナ、寒天、果物など店ごとにバリエーションはさまざま。
今回は、トウモロコシとココナッツミルクのチェーを作りました。
当初は期間限定の予定でしたが、「トウモロコシのチェーパップ」は店のメニューとして存続が決定しました。

ココナッツミルクとトウモロコシが絶妙な「トウモロコシのチェーパップ」(提供:原田さん)

大学生向けの補助金事業に申請

5人の出会いは、岡山県の大学と岡山青年会議所の連携授業「シゴトカレッジ」でした。シゴトカレッジは、実際に企業が抱える課題を事例に、学生がグループで解決策を考えるというオープンイノベーション型の授業。
そこで意気投合した5人は、ベトナムの文化を日本人に広く知ってもらうためのイベントを企画。活動資金を得るため、岡山市の補助金事業「学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクト」に「レホイ」というグループ名で申請し、補助金が交付されました。

「学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクト」は、ソログループとジョイントグループの2部門で参加学生を募集。それぞれの部門で、地域課題の解決や地域活性化を目指す「ソーシャルビジネスコース」と、新たな商品やサービスを開発、販売する「スモールビジネスコース」の2コースから選ぶことができます。
原田さんは「初めは、日本でも人気の観光地・ホイアンのランタン祭りを実施しようと思いましたが、コロナ禍のため開催できず、違ったアプローチをメンバーと話し合いました。会話の中で岡山には、ベトナム人が多く住んでいることから、彼らの故郷の味を通じて、日本人とベトナム人の交流を図ることができないかと、食のイベントを思いつきました」と話します。

グループ名「レホイ」は、古都ホイアンのランタン祭りの意味。

日本留学後も日本人と馴染めなかった先輩たちの話を聞いていたアインさん。「せっかく日本までに来たのに、コミュニケーションができないのはもったいない」と常々感じていたそうです。「私の場合、シゴトカレッジをきっかけに、他大学の人たちと仲良くなれました。意欲的な大学生に出会える機会として、後輩たちにシゴトカレッジの参加を薦めています」と話します。
アインさんは「ベトナムでは、人と人が親しくなるために、同じテーブルを囲んで食事をともにするという文化があります。同じものを一緒に食べ、互いの国や文化のことを気軽に話すことができれば、お互いの理解が深まり、仲良くなれるのではないでしょうか」と話します。

気軽に海外旅行に行くことが難しい状況でも、日本にいながら身近なところで異なる文化を体験し、それぞれの理解を深めることができます。
「就職活動が始まるメンバーもいますが、せっかく仲良くなったので『また5人で何かでやりたいね』と話しています」と原田さんたちは意気込みを語ります。

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