国産羊肉を普及させたい 牧場の経営に向け、移住先を秋田に選んだワケ

国産羊肉を普及させたい 牧場の経営に向け、移住先を秋田に選んだワケ
人懐っこい牧場の羊たち

羊肉と聞くとジンギスカンを思い浮かべる方も多いかもしれないが、日本で食べることのできる羊肉の多くが輸入品であることをご存じだろうか。
国産の羊肉は生産農家の少なさから希少価値が高く、手に入れることはなかなかできない。農林水産省のめん羊・山羊をめぐる情勢(令和3年11月)によると、国内のおよそ99%が輸入肉というのだから、いかに日本の生産が少ないかというのがよく分かる。
「牧場を経営したいという裏には国産羊肉の普及に一役買いたいという気持ちもあります」
そう話してくれたのは、羊牧場を経営するため群馬県から秋田県に家族で移住をした宮野洋介さんだ。

「家畜生産を通じ、多くの方に羊について知ってもらいたい」と話す宮野さんに、活動のきっかけや実現したい夢について尋ねた。

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本場で経験積み、秋田の地へ

宮野さんが羊と出会ったのは中学生のころ。牧羊犬のショーを見て将来は羊に関係する仕事に就きたいと思うようになった。
動物の専門学校を卒業後、羊の飼育員として観光牧場に就職。
いずれは自分の牧場を経営したいという夢があった宮野さんは、毛刈りの技術を身につけようと、本場ニュージーランドへ1年間の留学を決意した。

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「ニュージーランドは国土の半分が牧草地。1日の毛刈りだけで300頭も刈ることができるんです。日本では牧場によって毛刈りのやり方は違いますが、ニュージーランドは毛を刈る順番や羊の向きなんかも全て決まっています。ちゃんとした技術を磨くというのは羊にストレスを与えないことにも繋がりますので、いちから学ぶ必要があると思いました」

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帰国後、群馬県に戻った宮野さんは32歳で結婚し、ふたりの子宝にも恵まれた。
移住をして大きく変わったのは、家族と一緒にいる時間が増えたこと。
群馬県で生活をしていたころは仕事が忙しかったため、まだ幼い子どもたちと顔を合わせることが少なかったが、今では朝夕の食事も子どもたちと一緒だ。

移住当初は環境の違いに戸惑っていた子どもたちも、すっかり秋田の生活に慣れたようだと宮野さんは言う。

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移住を決断できたのは妻である友美さんの存在が大きい。
同じ職場の同僚として働いていた友美さんとは「いずれは一緒に牧場を経営しよう」と結婚前から約束していた。
同じ夢に向かって本格的に動き出したころ、秋田県の地域おこし協力隊で羊の飼育に取り組む募集を見つけ、これだと思った。

「秋田県藤里町に移住を決めたのは、肉用品種であるサフォークという羊を育てている牧場が元々あったからです。羊がいる環境であれば経営することにも協力的になってくれるのではないかと考えました。もちろん羊牧場の多い北海道への移住も考えたのですが、本州でチャレンジがしたいという気持ちが強か���たことが一番大きな理由です」

命の在り方を伝えたい

現在、地域おこし協力隊として2年目に入る宮野さんが、飼っている羊の数は全部で73頭。さらに100頭まで増やしていく予定とのこと。
夫婦ふたりで作ったという立派な羊小屋は、元気に動き回る羊で溢れている。

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「今後は生産だけではなく、お客さまに飼育体験や毛刈り体験をしてもらう場を作ろうかと考えています。ぼくは家畜に対して、人間が食べるから可哀想という考え方は少し違うかなと思っていて。飼育体験という活動を通じて、子どもたちに命の在り方を伝えていければと思っています」

観光牧場と家畜生産。それぞれの考え方や働き方があるとしながらも、どちらも携わった経験と知識を生かし、羊について多くの人に知ってもらいたいと宮野さんは話す。

国産の羊肉にこだわる理由

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移住をして1年。秋田の不安定な気候と向き合いながら、餌はなるべく国産を使いたいと試行錯誤を重ねてきた。

「餌となる草自体は同じ種類なんですが、どうしても春と秋は安定しません。水っぽかったり、すごく乾燥していたり……。全て輸入をすれば安定はしますが高くついてしまうということと、やはり国産でクリアしたいという気持ちがあります」

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今後は自治体と話し合いを続け、使っていない水田で餌となる穀物を作ることも検討しているという。
宮野さんがここまで国産にこだわる理由は、何なのだろうか。

「国産の羊肉が一般の家庭に並ぶことは、ほぼありません。お店で食べるジンギスカンなども輸入品が多いです。やはり日本人の舌には、日本の環境で育った羊肉が一番美味しく感じるはずだと、ぼくは思っています。ぼく個人の力で一般家庭に普及ということはできないまでも、きっかけになれたら嬉しいですね」

丁寧に育てられた宮野さんの羊は今年の夏、いよいよ出荷予定となる。

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