香川県出身のクリエイター、和田邦坊さん(1899-1992)が昭和初期に描いた『成金栄華時代』という風刺漫画があります。靴を探している女中に対して、お札を燃やして「どうだ明くなったろう」と言う船成金を風刺した作品です。歴史の教科書や資料集で、見覚えのある方も多いのではないでしょうか。

モチーフとなった『成金栄華時代』和田邦坊さん作(灸まん美術館提供)

この漫画に描かれている成金おじさんを石粉粘土で立体化し、お札の先にライトを取り付けて照明器具にしてしまったのが、3Dモデルからぬいぐるみを制作しているosaka(@osakaplush)さん。写真をTwitterで紹介したところ、注目を集めました。

今回は、成金おじさんの照明器具を作ったosakaさんと、和田邦坊さんの作品を所蔵している灸まん美術館(香川県善通寺市)に話を聞きました。

ユルかわおじさんが印象に残っていた

Twitterでクッキーの型が話題になっていたのを見て、久々に思い出したことが作品作りのきっかけになったのだと、osakaさんは話します。

「風刺漫画というのは皮肉っぽく描かれがちですが、画家である和田邦坊さんの大胆な筆のタッチが心地の良いユルさを生み、『風刺漫画なのに可愛い』とこれだけでも印象に残るのに、ユル可愛いおじさんがお金を燃やして灯りにする異常な行動が強烈に印象に残っていたので、立体化させたいと思いました」

3D成金おじさん ライトが消えた状態(osakaさん提供)

実は、成金おじさんはアンバランスな形をしていて、そのまま3D化すると転倒してしまう可能性があったそうです。
「接地面を増やし安定させるために右足を太めに作り、風刺漫画の印象を崩さないようにプロダクトとして成立させることが大変でした」

写真撮影では、Twitterのタイムラインに流れたときに一瞬で心をつかめるように、正面にライトを当てて影をなくすことで、イラストなのか立体物なのか混乱するような印象を与えるように意識したということです。

憧れを背負った成金おじさん

「昭和初期に発表された作品がこの令和の時代にも話題になるのは、面白い」と話すのは、灸まん美術館の学芸員・西谷さんです。

香川県善通寺市にある灸まん美術館の外観(灸まん美術館提供)

西谷さんによると、『成金栄華時代』は、1928年に出版された『現代漫画大観』という漫画の、3巻目の扉絵に収録されていた作品です。和田邦坊さんが時事漫画家の時に発表しました。当時は漫画というジャンル自体が過渡期であり、これが漫画という定型はなかった時代でした。

西谷さんは、この漫画が長く愛されている理由について、歴史の教科書に掲載されているのが大きな理由だと考えています。

「おじさんもすごく嫌な奴なのに、なんだか憎めない表情をしています。お金を自由に使える憧れみたいなのものがあって、『(お金を燃やす事を)やってみたい』と言われる方もいらっしゃいますし、『そんなことできないけど、できたらいいよね』みたいな憧れも、このおじさんは背負っているんじゃないのかなと思います」

香川が生んだマルチクリエイター

和田邦坊さんポートレート(灸まん美術館提供)

和田邦坊さんは、時事漫画家、小説家、農業学校の先生、讃岐民芸館の館長、デザイナー、プロデューサー、画家と、さまざまな肩書を持つマルチクリエイター。香川県の名菓『灸まん』はパッケージデザインからターゲットを誰にするかまで、和田邦坊さんの総合プロデュースだそうです。

和田邦坊さんがデザインした灸まんのパッケージ(灸まん美術館提供)

西谷さんは「これを機に作者の名前とか香川県のお土産物も手掛かりにして、和田邦坊さんのデザイナーとしての仕事や画家としての活躍も、皆さんに知ってもらえたらいいな」と話します。

灸まん美術館では11月14日まで、和田邦坊さんのコレクション展が開かれており、成金おじさんが描かれた『成金栄華時代』の実物も見ることができます。作品や和田邦坊さんについては、灸まん美術館のHPやInstagramでも紹介されています。

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