香川県高松市にある新屋島水族館。標高約300mの屋島山上にある、珍しい水族館です。2019年11月にリニューアルされたペンギンの水槽には、3家族20羽のフンボルトペンギンが住んでいます。

水槽の隣には、フンボルトペンギンの生態説明や、家族相関図が載った看板が設置されています。ペンギンの見分け方や兄弟関係に加え、求愛もハートマークと矢印とで描かれていますが、よく見ると「長沼さん」「木村さん」への矢印を持つペンギンたちがいるようです。

そんな“推しの飼育員”を持つ2羽のペンギンと、飼育員の関係を取材しました。主役はフンボルトペンギンの「シオンちゃん」と「あらたくん」。2羽の“推し”飼育員、長沼ひかりさんと、木村舞子さんです。推したり振ったり再燃したり。ペンギンたちは豊かな感情をいっぱい見せてくれました。

長沼ひかりさん(左)と、木村舞子さん(右)。プールがリニューアルした際、新しく作ったという看板とともに。

シオンちゃんの推しは、長沼さん!

シオンちゃんは、ペンギン担当の長沼ひかりさん推し。

「体が大きい家系」に属し、身体が大きくて雄と間違えられやすい雌ペンギンのシオンちゃん。ペンギン担当の長沼ひかりさんに人工保育で育てられました。シオンちゃんは長沼さんにだけ体を触らせたり、遠くからも長沼さん目がけて近寄ってきていたとか。

長沼さんに人工保育で育てられたシオンちゃん。

ペンギンは、つがいになると一生そばにいると言われています。長沼さんは「パートナーと思っていたのかもしれないし、つがい感覚でいたのかも」と振り返ります。他の飼育員が触ろうとするとシオンちゃんは怒ったり、つついて攻撃してくるそう。シオンちゃんにとって長沼さんは特別な“推し”だったのです。

しかし、2020年7月10日に生まれたニューフェイス「ナッツ」の登場は、シオンちゃんと長沼さんの関係に大きな変化をもたらしました。

ナッツはまだ性別が判明しておらず、看板にもまだ載っていません。

長沼さんは、ナッツの人工保育に時間を割くようになり、シオンちゃんとの接点が減ってしまったのです。最近では長沼さんが体を触ろうとしても、シオンちゃんはつついたり怒ったりするとか。

「もしかして、私のことをペンギンではなく人間だと気づいたのかも。好きなのに、切ない……でもシオンちゃんにはペンギン同士でパートナーを見つけ、家庭を築いて幸せになってもらいたいです」

あらたくんの推しは、木村さん!

あらたくんは、木村舞子さん推し。

「ケンカっぱやい家系」のあらたくんの推しは、木村舞子さん。以前開催された「ペンギンのお散歩」で、あらたくんは、ペンギン担当になったばかりの木村さんと初対面。その時の様子を、木村さんはこう振り返ります。

右が、木村舞子さん。9月に魚類担当となり、ペンギンたちを少し離れた場所で見守ります。

「私はイベントを勉強しようと、ペンギンの群れを少し離れたところで見ていました。その時あらたくんが私をじっと見ていて、それから寄ってきたんです。最初は『警戒されているのかな?』と思ったのですが……」

もしかすると、あらたくんの一目ぼれだったのかもしれません。木村さんにあごを撫でられると、うっとりするような表情になるあらたくん。他の飼育員には攻撃で返します。

木村さんが水槽の掃除を行う時も、あらたくんは木村さんのそばから離れなかったそう。「他のペンギンより『この子、すごい来るな』って感じていました」

しかし2021年9月、木村さんはペンギン担当から魚類担当へと異動に。“推し”の木村さんと離れてしまったあらたくんですが、何かを吹っ切るかのように、他のペンギンたちへアピールするようになったそうです。

豊かなペンギンの感情を見つめて

「つがいになると一生そばにいる」はずのペンギンですが、やきもちをやいたり、嫉妬したり、時には三角関係を超えた四角関係の行動も見受けられるとか。

ペンギンはペンギンにも興味津々。

ペンギンの気持ちはタイミングや接点の回数、気づきなどで変わります。「推しに推されたい」長沼さんと木村さんですが、その気持ちをぐっとこらえ、母親のような愛情でペンギンたちを見守っています。

「多くの方に、ペンギンの関係図から1羽ずつの個性を、じっくり見てもらいたいです」

「この子は、甘えに来ました。もうそろそろご飯だから『餌くれる人のそばにいよう』と思って寄って来る子もいます。毎日一緒にいますから、分かるんです」と、長沼さん。

個性豊かなペンギンたち。腕に装着した輪っかで見分けられるので、新屋島水族館を訪れた際は、ぜひ20羽いる“ペンギンの関係”にも注目してみてください。

よちよちと歩く姿が愛らしい、フンボルトペンギン。輪っかと看板を見ながら、ぜひ「推し」を見つけてください。

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