乳腺外科医の何森(いずもり)亜由美さんは「患者さんに求められる医者」を理想と定め、研鑽を積んでいます。香川・高松平和病院にて勤務中、消化器外科から乳腺外科へ転身。たけべ乳腺クリニックで学びながら、独自の乳腺超音波診断法を確立。がん研究会がん研有明病院の乳腺センター外科で指導医としても活躍し、現在は香川を拠点に岡山、徳島でも診療しています。

2021年6月には、ハーバード大学の医師により創設された「Best Doctors in Japan 2020-2021」に選出されました。これは各国の関連分野で活躍する医師から推薦された人に与えられる称号です。

「乳がんの正しい診断、治療技術の標準化」がテーマの何森さん。その歩みと、10月の「乳がん啓発月間」に関するメッセージを取材しました。

超音波乳腺の独自の診断方法を確立し、外科医などに指導

何森さんは外科の道を究めるため、消化器外科医に。しかし出産・育児を機に、乳腺外科医としての道を歩み始めます。

「育児と並行して、緊急性の高い消化器系手術に取り組むのは、非常に困難。緊急の呼び出しがあった際、子どもを病棟の看護師さんに預けてオペ室へ向かっていました。2人目の誕生の際は『さすがに2人も抱えてかけつけられない』と感じ、消化器外科を諦めました」

ただ、メスは捨てたくない。乳腺外科なら女医として患者さんに求められる医者になれる。何森さんは自分で手術を行うためにも、乳腺超音波の画像ととことん向き合いました。カメラが趣味でモノクロ写真を撮っていた何森さんは、超音波画像のグラデーションやコントラストの違いなどに敏感な「目」を持っており「いろんなものが見えた」と言います。

マンモグラフィで撮影されたX線画像をチェック

当時はまだ、超音波で乳腺を見るための教科書もなかった時代。消化器外科での経験を生かし、胃カメラやCTの技を応用した独自の超音波画像の診断方法は「誰も発想しなかった見方」として高い評価を受けました。

2010年、日本で1番目・世界で4番目に乳がんの手術が多い東京の「がん研有明病院」の乳腺センター外科に指導医として1年3か月勤務。多くの臨床検査技師や乳腺外科医、研修医に指導しました。

「がん研究会がん研有明病院」の乳腺センター外科でディスカッションした内容は「やり方に特化」した『誰も教えてくれなかった乳腺エコー』として出版され、韓国語にも翻訳。

現在は、高松平和病院での勤務を中心に、患者と向き合いながら論文を執筆し、さらにAI学習で設計されたアプリケーション搭載の超音波診断装置開発にも携わっています。

「自分にしかできない範囲で、自分のできることをせいいっぱいやる」のが、何森さんのモットー。努力と意思によって積み重ねられた技術や診断方法は、数多くの乳腺外科医や検査技師に広がっています。

専門医が語る 検診は『1年に1回』

患者と向き合い、丁寧な説明と対話を心掛ける何森さん。「乳がん啓発月間」に当たり「命を救うために、無自覚のうちに発見するのが確実。毎年検診を受けていると、早期発見に繋がります」とメッセージ。乳がん検診は国の推奨では2年に1回ですが「できるなら1年に1回」のリズムで受けて欲しいと語ります。

「乳がんは4、5年かけて大きくなるものもあります。こちらはおとなしいタイプなので、専門医として推奨する年1回の検診で早期発見できます。しかし乳がん全体の約7%は半年で大きくなるものが存在しています。こちらを早期発見するためにも、セルフチェックを取り入れてもらえたらと思います」

月に1回の「セルフチェック」

セルフチェックとは、生理後10日目の胸が柔らかい時期をめどに、普段と違うしこりをまんべんなく探すこと。普段から触っていると、違和感が見つかりやすくなります。

「寝た状態で行うと均等に乳房に触れるので、しこりにひっかかりやすくなります。つまむより、指の腹を横に滑らせてください。周りと違った固い部分がないか調べます」

しこりにも、弾力や、動いたり、固くて動かないものがあるそう。全てが乳がんでもないので、見つけたらすぐに検査へ向かいましょう。

マンモグラフィと超音波検査、「乳腺濃度」

乳がん検診には、マンモグラフィ(乳房X線検査)、超音波検査などがあります。自分に適した方法を知る1つのキーワードが「乳腺濃度」です。

乳房が柔らかく、乳腺が「脂肪性」の人は、マンモグラフィが適しています。繊維成分が多い「高濃度乳腺」タイプだと、マンモグラフィだけではがんが見つかりにくい場合もあります。

「乳腺濃度は、見た目では判断できません。自分の乳腺が高濃度か脂肪性か知ることは可能です。自治体や地域にもよりますが、超音波を追加するか先生と相談するといいかもしれません」

欧米人と比べて、アジア人は高濃度乳腺が多めだそう。乳腺濃度を聞くなど、自分の身体を「知りたい」という思いは大切だと、何森さんは語ります。

1人の身体じゃないからこそ「乳がん検診」を

何森さんは2人の娘の母親でもあり、働きながら子育てをする大変さを知るからこそ「『乳がん啓発月間』が、普段忙しくて自分を後回しにしてしまう方のきっかけになれば」と言葉にします。

「自分1人の身体じゃないんです。家族のためにも、症状が例えなくても遠慮せずに受けてください」

「乳がん啓発月間」は、日曜日も検診を行っている場所もあるそう。乳がんは、早期発見ができれば治る病気です。自分の身体のため、周囲の人たちのため、ぜひ検診に足を運んでみてください。

日本人女性の乳がん罹患率は、2020年予測で92,300人。9人に1人が乳がんになる時代です。(『女性全がん2020』『がんの統計'21』より)。「ぜひ検診を受けてください」と何森さんは語ります。

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