地元・香川県をフィールドに、30年近く鳥を撮り続ける、丸亀市在住の福丸政一さん。35歳の時から始めた野鳥写真の腕前は、プロもうなるほどです。日本唯一のバードウォッチング専門誌『BIRDER』の表紙やグラビアを飾った経歴もあります。最近では、夜行性で姿を見るのは難しいヨタカの求愛シーンを撮影し、『BIRDER』2021年6月号に取り上げられています。

ヨタカの求愛シーンを撮影

現在は夜行性のヨタカの姿を追いかけています

「鳥の話になると止まらんよ」
野鳥愛にあふれる、福丸さんのお話です。

“何か”に会えたらそれでいい

「見たい会いたい、できれば撮りたい」で野鳥観察に臨む福丸さん。

特に挑戦するのは、夕暮れから夜にかけての観察です。観察場所も友人と情報共有しつつ、可能な限り自分の足で探します。大勢の人が集まる場所には、あまり興味がありません。

「フィールドをうろうろして、重い荷物を担いであっちこっち。毎日毎日その繰り返しで、それが楽しいんです」

鳥のいるフィールドを求めて、福丸さんは走り回ります

現地に着くと、鳥の鳴き声に耳を澄ませて「どこにいるんだろう」と位置を推測。鳥が気に入りそうな木や枝を見つけ、カメラをセットし、静かに登場を待ちます。自然のままの姿を撮るために、ライトアップはしません。

しかし、相手は自然。フィールドで必ず鳥に会える確約はありません。ようやく出会えてもイメージ通りに撮るのは難しく、さらに撮影は一瞬で終わってしまう、というのが野鳥観察・撮影の世界です。車で1時間以上かけて赴いても、撮影が10分弱で済んでしまうこともしばしば。

「鳥を見に行っても当てはないし、簡単には見えない。だから“何か”に会えたらそれでいいんです」

福丸さんが撮影したオオノスリ。「今年も来てくれた」

ハヤブサ「おんちゃん」と福丸さんの12年もの交流

福丸さんには、“おんちゃん”と名付けた、特別な雄のハヤブサがいます。

ハヤブサ「おんちゃん」

福丸さんがおんちゃんと出会ったのは、自営の建設業関連で縁のあった場所。現地管理者から許可を得て、2004年から観察を始めました。日頃から「鳥には嫌われたくない」と強く思う福丸さんは、人が押し寄せることを懸念して、1人で撮影を続けました。

「車を見つけると追いかけてくるほどの、繁殖期で気が立っていた雌を見つけました。その後、おんちゃんがさぁーっとやってきた。それが最初でした」

雌に気を遣っていると、おんちゃんも次第にリラックス。徐々に距離が縮まりました。

手前は福丸さん。ハヤブサ・おんちゃんとの距離感が感じられます

鳥の中でも特に警戒心が強いハヤブサは、撮影も難しいとされています。過去『BIRDER』の表紙を飾ったおんちゃんの写真は、福丸さんのお気に入り。すっと見上げた優しい目つき、丸っとした黒い眼は、猛禽類の格好良さとは一味違った印象が。

「人間も一仕事終わったら『ふうっ』って空を見上げたりするでしょう?おんちゃんもそんな気持ちだったのかなぁ、と思うんです」

それから12年間、福丸さんはおんちゃんのさまざまな姿を見てきました。おんちゃんの「砂浴びをする姿」は、プロカメラマンでも撮影困難で、業界では騒然となりました。

ハヤブサの砂浴びという、貴重なシーンを撮影

「ある日、おんちゃんが狩ったハトを食べながら居眠りしていて、びっくりしました。また、貯食場所に隠してしまう食べ残しのハトを、私の前に置いて飛び立ったこともありました。私に譲ってくれたのかも?と思いました」

警戒心の強いハヤブサとは思えない行動。鳥の気持ちは人間には分かりませんが、もしかしておんちゃんは福丸さんを“仲間の一羽”として認めていたのかもしれません。

ハヤブサ「おんちゃん」の写真集と共に

そんな12年に渡って続いた不思議な関係は、ある日を境に終わりを告げました。おんちゃんに会えなくなったのです。住処の自然環境の変化が一因かも、と福丸さんは心を痛めています。

「鳥と自然」を見守る

自作した写真集のページ。この場所はもう変わってしまっています

おんちゃんを始め、数多くの鳥との「出会いと別れ」を繰り返してきた福丸さん。鳥の声に耳を傾け、鳥の住む環境から自然を感じ、「鳥と自然」を見守っています。

「鳥は、雛のいる営巣地から離れられません。木を伐採しようとした神社などに遭遇すると『せめて雛が巣立つまで切らないで』とお願いしたこともありました。森には鳥の餌になる虫がいて、雛が伝う木々の枝があります。鳥の生態を知っているから、見える世界があるんです」

そこには野鳥観察を舞台に“自分のスタイル”を貫き通そうとする信念が見えました。

「人に嫌われても、鳥には嫌われたくないからね」

四季折々の鳥たちとの出会いを求めて