日本六古窯の一つ・備前焼の産地として知られている岡山県備前市伊部。千年の歴史がある町には赤レンガの煙突がいくつも立ち並び、案内看板やバス停の屋根など随所に備前焼が使われ、風情ある街並みだ。

そんな伊部で、地元の中高生らが作成した動画がYouTubeに投稿されている。「【伊部応援動画】中高生がダンスでまちを盛り上げる☆がんばろう備前市伊部地区!【We love INBE】」がそれだ。

小6でダンススクールを立ち上げた井上百夏(いのうえ・もか)さんと、そのスクールに通う中高生らが中心となり、アーティストのミュージックビデオを参考に、オリジナルの振り付けや演出も加えて作成。備前焼の窯元や旧道など、伊部の街をバックにキレのあるダンスを披露している。

2020年10月に動画がUPされてからすでに視聴回数が6000回を超えている(2月1日時点)。地域内外での反響も大きく、
「伊部は面白いことやってるなあ」
「子どもたちが活発で地域と一緒に取り組んでいる様子が素敵です」
「離れた地元の様子が懐かしく元気をもらいました」
などの声が寄せられているという。

こども園で園児たちとダンス

今回の動画をきっかけに地域を動かした中高生の力は凄まじかった。このプロジェクトを通して、横の連携が難しかった地域の大人たちを繋いだのだ。

地域に"横ぐし"を通す難しさ

特に地方部で少子高齢化や人口減少が取り上げられて久しいが、昨今、自分たちが住む地域の課題を自分たちで解決しようという「地域運営組織」が注目されている。高齢化により地域の「自助」が限界になる一方で、行政主体の「公助」機能も低下する中、地域の複数の団体が連携して互いに生活や暮らしを支え合おう、というものだ。

伊部がある備前市でも、地域運営組織を制度化、市内の各地区で「まちづくり会議」が立ち上がった。
自治会、民生委員、消防団、PTAなど地区の各団体の代表者らと市の担当職員とで会を構成し“地域の人と人(団体と団体)をつなぐ横ぐし”となることを目的に、それぞれの地域の課題に対してそれぞれに合った取り組みを行うというものだ。

伊部地区でも、2018年12月に「伊部地区まちづくり会議」を立ち上げ、「WeloveINBE」というスローガンを掲げ、住民自身が楽しみながら伊部の魅力を再発見し、発信していくことを目標に活動してきた。

しかし、多くの「まちづくり会議」の課題としてよく挙げられることがある。

「まちづくり会議をスタートさせても、地域に横ぐしを通すための機会や動きはそう簡単にはつくり出せない。」といった課題だ。従来まで、各団体がそれぞれのやり方で活動を行ってきたのだから、急に一緒に何かをするにはハードルがある。代表者が形ばかりに名を連ねるのみで、まちづくり会議が開催する定例会には参加が少ないというのはよくある話だという。

伊部まちづくり会議

地元の中高生が地域を繋ぎ、大人が後押し

伊部地区でも同じような課題を抱えていた。そんな中、この伊部応援動画にはまちづくり会議に属する各団体が名を連ね、地区住民と中高生が一緒に、それぞれの活動拠点や地区の名所を舞台にダンスを踊るという構成で制作されている。

ダンスがスタートする伊部駅前

中高生から「伊部を応援する動画を作りたい」と発案があり、各団体へ「一緒に協力してほしい」という依頼を通して、地域に「一緒に伊部のために動き出そう。地元の中高生のために頑張ろう。」という機運が高まり、各団体の連携が生まれた。場所の選定や出演者はまちづくり会議が調整。映像制作は、備前市出身で映像制作会社を起業した若者が手がけた。

制作動画の中には備前焼のPRも!

この動画、なんと発案から約3か月という期間でYouTubeに公開されている。地元の中高生の「自分のまちを盛り上げたい」「自分たちが楽しい思うことに地域でチャレンジしてみたい」といった純粋な気持ちが地域の大人たちを動かしたのだ。

ダンスグループのリーダーである井上百夏さんに話を聞いた。

(写真中央)ダンスグループリーダーの井上百夏さん

Q.今回の動画企画に取り組んで思うことはありますか?
「このような本格的な撮影は始めてで個人的にもとてもいい経験になったし、自分がやってみたかったことなので活動していてすごく楽しかったです。チームのみんなも撮影してもらえることを喜び、楽しんでいたのでダンスをより楽しんでいただき、地域の方達とも親しんでいただけたのではないかと思います。」

Q.普段から活動していて、伊部地域の大人たちに思うことはありますか?
「私が行おうとしていること、やってみたいと思うことに全力で協力し、応援してくれます。アドバイスをしてくださったり、実際に動いてくださったり 若い人たちを応援する気持ちがとても強いです。優しい大人の方達に見守られているのでレッスンもしやすいです。」

Q.伊部の好きなところはどんなところですか?
「伊部の好きなところは優しい人たちが多いところです。若者が楽しめる、地域を好きになってくれる、ということを第一に考え実際に行動してくれています。誰かのために自分が力になる、というのはとても素敵な事だと思います。私も人のために頑張れる、そんな大人になりたいです。」

中高生が大人ら地域を動かし、その大人たちが子ども世代の「やりたい!」という思いを汲んで背中を押してあげる懐の深さを感じられた。「地域づくり」の成功は、こうした"懐の深さ"にあるのかもしれない。

子どもと大人をつなぐ地域の拠点「伊部公民館」

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