東京・神保町に、大阪・阪急古書のまち――ひと昔ほど前ではないにせよ、大都市ではまだまだ当たり前に見かける街の古本屋。しかし、地方はとなるとその事情は大きく異なります。

ことでん志度線・松島二丁目駅のほど近くに店を構える讃州堂書店も、四国・高松では貴重な昔ながらの古本屋さん。まるで映画のワンシーンを切り取ったかのような堂々たるたたずまいの店は、高松市の中心部から少し外れた路地裏で40年以上にわたる歴史を刻んできました。

店主の太田育治さん(72)

天井近くまで積み上げられた古書の山は、圧巻のひと言。ご当地・香川の郷土史や入手困難な雑誌のバックナンバー、さらには映画のポスターや絵葉書など、おびただしい数の商品が訪れる人を迎えてくれます。

いかにも謎めかしい「UFO宇宙人」コーナーの存在も、一部では話題に。創業当時から店に立ち続ける太田育治さん(72)に話を聞くうち明らかになったのは、縁と縁がつながった結果が、地域屈指の古本屋を生んだという事実でした。

老舗古書店の店主は、意外にも「アウトドア派」だった

人懐っこい性格のみーちゃん。育治さん宅には10匹以上の猫がおり、その代表だ

看板猫のみーちゃんに見守られながら始まった、今回の取材。讃州堂書店の謎のひとつ、圧倒的な在庫のわけは、育治さん自らが「セレクトしない」買い入れ方針にあります。大型の古本屋でも取り扱いのあるマンガや小説を除いて、来る本は拒みません。

「本の縁やからそれで置くと。自分では選択せんと。入ってきた本を置いていく」

大らかな人間性が反映された語りには、40年続く商売への達観が見て取れるようです。それだけに、さぞやかつては読書少年だったはずと思いきや、さにあらず。

小学校時代は高松の海や山に遊ぶ「アウトドア派」で、トンボ捕りに夢中になって肥だめに落ちてしまったこともあるという、仰天の過去を教えてくれました。

地元・香川を取り扱う本が並ぶ一画

その後、進学した高松商業高校の夜学では、育治さんの生き方に大きな影響を与える恩師との出会いがありました。英語の担当であるにもかかわらず、授業では「このなかに空飛ぶ円盤を見たことがある人は?」と問いかける型破りな先生は、一方で「人から教えてもらうのではなく、自分から学びなさい」という考えの持ち主。

「昭和レトロ」がナチュラルに陳列されている

生徒の自主性を重んじると同時に、夜学に通うことを卑下することがないようにと、全日制のみの開催だった体育祭や文化祭の門戸を定時制にも広げるなど、高校生らしい体験の場を用意してくれたそうです。

また大学進学や留学を勧めるほか、当時の社会問題を分かりやすく説くことも。担当教科の枠を越えて、育治さんの視野を広げてくれた先生の教えは、のちに東京の高校に編入するきっかけを与えることにもなりました。ただ、このころも本や読書は、育治さんにとって縁遠いものなのでした。

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