警察官を経てIT・AI業界に転身し、現在はLandBridge株式会社の代表として事業を率いている三森一輝さん。安定した公務員という立場から、変化の激しいテクノロジーの世界へ飛び込んだ背景には、意外なきっかけと強い思いがありました。
警察官になった理由と、そこで培った強み
三森さんは、もともと警察官を目指していたわけではなかったといいます。父親が経営者だったことから、将来は家業を継ぐものだと漠然と考えていたものの、当時の業績状況を踏まえ「継ぐことを考えるなら、公務員とか安定したところに行った方がいい」と勧められました。
高校卒業後「すぐに働きたい、稼ぎたい」という思いもあり、たまたま警察官だった野球部の先輩の話を聞いたことをきっかけに試験を受け、合格。
「正直、高校生の頃は警察官の仕事がどんなものか、よく分かっていませんでした」と振り返ります。当時は「公務員=安定」という理由で選んだことが大きかったそうです。

警察官時代の強みは「人を見る目」。交番勤務や現場経験を重ねるなかで相手を見極める力が養われ、結果として多くの実績につながりました。
もう一つ大切にしてきたのが「市民に寄り添う姿勢」。威圧的な態度ではなく、相手の立場に立ったコミュニケーションを心がけてきました。
さらに、機動隊の銃器対策部隊「RATS」への所属や、陸上自衛隊のレンジャー訓練にも参加。睡眠時間がほとんど取れない過酷な訓練を経験し「これ以上きついことは今後の人生ではないだろう」と感じるほどでした。
そのときの経験については「多くの人ができない経験をさせてもらった。本当に感謝しています」と語っていました。
「我慢する仕事」から「楽しい仕事」へ
警察官時代、仕事に対する感覚は「我慢するもの」でした。やりがいは感じつつも、どこか「耐えなければいけないもの」という意識が常にあったそうです。
もともと、ガジェットなど新しいものが好きだった三森さんは、飽き性な面も。そのため、安定している警察官の仕事は、同じことの繰り返しになってしまい、つらく感じていました。

IT業界に転身してからは心境が一変します。技術の進化が非常に早く、常に新しいことに挑戦できる環境は、飽き性だという自身の性格が強みに。次々と新しいことに興味を持てるため、業界の進化にもついていけました。
最初は会社員としてIT業界に入りましたが、働き方に大きな変化を感じにくかったことから、フリーランスを経て起業を選択。不安もあったものの、それ以上に「楽しい」という気持ちが強かったと振り返ります。
「これから何やろうか」「こんなことやりたい」「あんなこともやりたい」という思いをチームの仲間と共有しながら仕事を進めることは、警察官時代には想像もできなかったものでした。
巨大組織を離れて感じた変化
警察官時代は決められた方針に沿って動く場面が多くありましたが、現在は代表として、仲間やAIの意見も取り入れながら、自身の考えを見つめ直しつつ判断しています。
そうすることで選択肢の幅が広がり、いろいろな人の知恵を借りながら一緒に仕事ができるという、警察官時代にはなかった感覚でした。

警察組織については「非効率だとは思っていない」と三森さん。組織構造や内部の体制づくりという点では、人事部や交通部、刑事部などの役割分担がはっきりしていて、誰が何をやるかが明確でした。
一方で、現在のベンチャー企業では、各々やることを必死でこなしている状態。属人化している部分もあり、組織づくりが課題とのこと。とはいえ、それを一から組み立てていく過程こそが、会社づくりの醍醐味だと語ります。
働き方も大きく変わり、警察官時代は定時で帰ることが多かったものの、現在は朝から夜遅くまで働く日々に。周囲からは「何のためにそこまで働くのか」と思われるかもしれませんが、本人にとっては苦ではなく「もっとやりたい」と感じるほどでした。
民間企業で感じたギャップと転職してよかったこと
警察官の仕事では、売上や利益と直接向き合う機会は多くありません。民間企業に身を置いて初めて「お金の感覚」という新たな視点に触れたことが、最も印象に残っています。

売上や利益が仕事と直結し、自分の仕事が成果として表れる点は、新鮮な感覚でした。一方で、上司と部下の関係や指示系統など、組織の基本的な構造は警察と大きく変わらない部分もあります。
その中で、特に違いを感じたのが仕事のスピード感でした。最初に勤めたベンチャー企業では、社長の意思決定が早く、それに合わせて物事がテンポよく進んでいったといいます。
転職して実感した、働き方の大きな変化
転職して最も大きく変わったと感じているのは「好きな人と、好きな時間に、好きなだけ働ける」こと。
警察官時代は「仕事=我慢するもの」という意識がどこかにあり、耐えることが前提になっていました。しかし現在は、仕事でありながらも、自分の好きなことに向き合っている感覚が強く、我慢という感情はほとんどありません。
その感覚は、社員たちにも共通しています。我慢して働くというより、それぞれが好きなことに集中しているからこそ、新しいアイデアが生まれ「これやりましょう」「あれやりましょう」という提案が自然と出てくるのだとか。

自分の意思で判断し、選択できるようになったことは、大きな変化でした。成功も失敗も自分の決断として受け止められることで、今は本当にやりたいことに向き合えているといいます。
また、時間や場所に縛られない働き方も魅力のひとつ。パソコン一台で仕事ができ、海外でも活動できる環境は、以前には想像できなかったものでした。AIをはじめとする最先端の技術に触れ、それをどう活かすか考えながら働けることにも、大きなやりがいを感じています。
これから目指す未来
三森さんは、明確なゴールを一つに決めているわけではないものの「大きなことを成し遂げたい」と明かしてくれました。
「世界と日本の架け橋になる」という思いを込めた「LandBridge」という社名の通り「海外と日本の人たちが何の壁もなく一緒に働ける未来を実現したい」と、現在も海外の人たちと一緒に仕事に取り組んでいます。

また「元警察官でも成功できる」ことを証明したいという気持ちも。警察官の優秀さや真面目さを証明できるよう、最終的に成功した姿を見せたいと話します。
「警察と何か大きな仕事ができたらいいなとも思っています」と今後の思いについても語っていました。
最近では「ふとるめし」という冷凍弁当の販売事業も始めたという三森さん。AI事業だけでなく、新たな分野にも挑戦しながら、関わる人たちが幸せになる組織をつくることが、今の最大の目標だと教えてくれました。
安定から挑戦へ。三森さんの選択の先には、自分らしく働ける未来が広がっているようです。

