「イエロードック」をご存じだろうか。イエロードックとは、むやみに近づいていけない犬のことを指す。
犬のリードに、黄色いリボンがついているのがイエロードッグの目印だ。このリボンは『この子には近づかず、そっと見守ってね』と伝えるサインである。

まだまだ認知が低いイエロードックの存在を世間に広めたいと考え『みんなのイエロードックプロジェクト』を立ち上げた代表の染川さん。『みんなのイエロードッグプロジェクト』は、スウェーデン発のイエロードッグプロジェクトの啓蒙活動をしているボランティア団体。イエロードッグとは、犬が苦手、人が苦手、子どもが苦手など、接近があると散歩が難しい犬たちのことを指すという。

染川さん自身もイエロードックであるまるこ(@maruco4649)ちゃんを飼っていた。生前、まるこちゃんは犬に近づくと倒れてしまうという症状があり、Instagramにてまるこちゃんやイエロードッグについて発信している。

今回染川さんに『みんなのイエロードッグ』を立ち上げに至った背景や、イエロードックについて聞いた。

立ち上げのきっかけは愛犬の発作だった

『みんなのイエロードッグ』は染川さんの愛犬、まるこちゃんがきっかけだった。まるこちゃんは元保護犬で、強度に犬が苦手な犬だったという。他の犬が苦手な理由は染川さんでも分からない。

「まるこは以前の飼い主に捨てられ孤独に生き抜いてきた中で、吠えられたり追いかけられたり何かあったのかもしれません。とにかく病的に苦手というか、無理でした。また、精神面だけでなく病気によって症状が加速したということもあると思います。まるこのようにトラウマがなくとも、シニアになったり、病気になったりして犬が苦手になる子もいるからです」

染川さんが迎え入れる前のまるこちゃん(@maruco4649さんより提供)

まるこちゃんは外でしか排泄ができない中型犬。お散歩しないと膀胱などの病気にかかってしまうため、1日2回、1時間ほどの散歩が必要だった。まるこちゃんを迎え入れる際、譲渡してもらったボランティアさんから「絶対に犬を近づけないように」と念を押されていたため、散歩の際は他の犬を避けていた。

ある日の散歩中「この子は犬が苦手なので、距離をとってください」と伝えたにもかかわらず、他の犬が接近してきた。すると、なんとまるこちゃんは気を失い倒れてしまったのだ。

「当時てんかんと診断されていましたが、後に病状が悪化し心臓、または肺による発作と診断されました。発作の確定診断は大変難しいのだそうです」

染川さんはその後、まるこちゃんが倒れた出来事をInstagramで発信。すると、コメントで『イエロードッグプロジェクト』について教えてもらったのだ。

排泄と、健康維持のため必須のお散歩。先に『接近NGな犬』であることを伝えられるこのプロジェクトは、他の犬から逃げ続け散歩をしていた染川さんの希望となった。

まるこちゃんが逃げ続ける散歩をしているのは理由があること、また、接近NGな犬であることを黄色いリボンを付ければ伝えられる。

2021年の2月以降、SNSでイエロードッグプロジェクトについて発信し始めた。この時は染川さんたった1人。この取り組みはたくさんの方に情報拡散され、記事にもされたという。

しかし、残念ながら現状は変わらず、他の犬を回避するため早朝4時の散歩を続けた。早朝でも、まるこちゃんの排泄中に背後からの急接近があり、発作を起こし倒れたこともある。
染川さんは心身ともに限界だったという。楽しいはずの散歩。周りにおびえながらはかなり精神的に来るだろう。

そんな中、SNSでの応援が染川さんの励みになった。まるこちゃんと同じように、普通の散歩が叶わず、早朝や深夜に散歩している犬と飼主がたくさんいることを知ったという。

「なんとかしたい」
地域でイエロードックについて広まっていなければ黄色いリボンのサインは意味を成さない。染川さんは団体を立ち上げたのだ。

『近づかず、そっと見守ってね』

残念ながらまだまだ団体の認知度は低く、イエロードッグと飼い主たちは、早朝や深夜のお散歩に追い込まれるケースがある。愛犬家でも知らない人がいるそうだ。

染川さんも散歩の際は『犬が苦手 近づかないでね』などと書かれたメッセージグッズを付けてお散歩し、愛犬家でない方たちにまずアピールしたという。まるこちゃんは人との接近は問題なかったため病気のことを話し「近所の愛犬家の方にお伝えいただけないか?」とお願いしたり、ご近所さんに相談し近隣の愛犬家の方たちに話してもらったりした。

黄色いリボンはイエロードッグであるという目印である(@maruco4649さんより提供)

イエロードッグについて染川さんは「犬に噛まれて犬が怖くなってしまったり、人から無理に触られて人が怖くなってしまったりと、イエロードックになってしまう理由はさまざま。トレーニングで症状や状態が改善する犬もいます。しかし、免疫が落ちている、病気など、感染の観点から一生イエロードックのままという子もいます。今、健康であっても、ある日突然お散歩が困難になることがあります」と染川さんは話す。

イエロードッグについて町で情報を広めるということは、老若男女問わずプロジェクトを伝える必要がある。染川さんは、高齢用、子ども用とわかりやすいチラシをデザインし、サクセスモデルを作るために強化地域を設けた。チラシ掲示とチラシ設置、SNSでの発信を行い、ドッグイベントの出店、メディア掲載、ラジオ出演でイエロードッグたちへの理解が深まるよう伝える活動も行っている。

「ネットをあまり使わない高齢の方は、チラシの掲示と設置でかなり知ってもらえることがわかりました。しかし、子どもたちにはまだまだ知られていません。今、中学生や高校生のボランティアたちが啓蒙活動を頑張ってくれています」

イエロードッグのチラシ掲示は北海道から沖縄まで広がっている。(『みんなのイエロードッグプロジェクト』より提供)

活動後の変化

現在は、埼玉県杉戸町を本部とし、大阪支部を拠点に西日本へ広める活動を行っている『みんなのイエロードッグプロジェクト』。立ち上げてから、変化はあったのだろうか。

「まず、自身の町を含む埼玉県の2つの地域を強化地域としチラシの掲示と設置を進めました。すると3ヶ月経った頃から、距離をとっていただけるようになり、半年後にはお散歩ができるようになりました。もうひとつの強化地域でも、その地域のイエロードッグの飼主さんより『犬を近づけないでもらえた!』と、感謝のお声を頂きました」

また、活動開始当初のイベント出店では、ほとんどの方がイエロードッグプロジェクトを知らなかったという。しかし、最近のイベントではプロジェクトを認知している人も増えてきたそうだ。

元保護権でイエロードッグであるまるこちゃん(@maruco4649さんより提供)

最近では、自治会やマンション、町ぐるみで「イエロードッグプロジェクトを広めたい」と染川さんのもとに嬉しい声も届いている。愛犬家同士、町の人たちと犬のトラブルで困っている人はたくさんいる。

イエロードッグプロジェクトは、トラブルを未然に防ぐことができ、町の人と愛犬家をハッピーで繋ぐことができるプロジェクトだ。

「皆さんの応援のお陰で、まるこの大好きなお散歩を叶えてあげることができました。私ひとりでは無理だったと思います。皆さんからもらった愛を力に変え、これからもお散歩に困る犬と人のために活動していきたい」と染川さんは話す。

全国に伝えていきたい

「犬は社会の中で生きる生き物です。しかし、普通に生活するのが難しい犬もいます。犬の世界にも譲り合い、支え合うためのサインが必要ではないでしょうか」と染川さんは語る。

普通に生活するのが難しく、サインがなければ逃げ続けなくてはならない。逃げられれば相手も嫌な思いをし、トラブルを生む原因となる。誰だって愛犬家同士、同じ町に生きる者同士トラブルを望んでいない。

心地よく毎日を過ごすため、そんな思いを繋ぐハッピーサインをたくさんの街に伝えていく。それがイエロードックプロジェクトだ。

みなさんの周りにも、黄色いリボンをつけた犬はいないだろうか?見つけたら、そっと見守って欲しい。そうすれば、助かる犬と飼主がいる。

まるこちゃん(@maruco4649さんより提供)

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