空海の郷として知られる香川県善通寺市の市立図書館館長と地域おこし協力隊員らが11月12日、国指定史跡「王墓山古墳」で絵本の読み聞かせを行った。古墳と読み聞かせという珍しい組み合わせは、「地元の名所に親子が集うことで、新しい交流につなげたい」という思いから生まれた。

国の史跡で絵本を読む

善通寺市内には大小400基の古墳が点在し、古墳の街としての顔がある。王墓山古墳は、6世紀半ばに作られた全長46メートルの前方後円墳。全国でも出土が少ない金銅製冠帽などを出土しているが、発掘調査前はみかん畑だった。全体が芝生に覆われており、上ったり、周囲を歩けるように整備されている。晴れた日は瀬戸大橋まで展望できる。

王墓山古墳は自由に上ったり、周囲を歩けるように整備されている

その場所で、十数人の親子連れが芝生に座って、読み聞かせが始まった。まず、市民ゲスト参加の古谷哲雄さんが「ひまわりのお母さん」を読む。すくすく育ったひまわりのお母さんは、太陽だったという心温まる物語。子どもたちの成長にかける思いを重ねて選んだという。

ひまわりが成長していく物語を読む古谷さん

続いて、地域おこし協力隊員の臼井俊行さんが紙芝居「じてんしゃももたろう」を披露。図書館館長の丸濵晃一さんは、干支にちなんで「うさぎになったゆめがみたいの」を読んだ。市民ゲスト参加の山本哲哉さんと地域おこし協力隊員の中川裕太さんも、それぞれユニークに情感を込めて読み聞かせた。山本さんは「楽しそうなので読み手に加わりました」と話した。

紙芝居「じてんしゃももたろう」を読む臼井さん。「面白くて学びになる」と考えて選んだ

読み聞かせは、選書も含めて読み手の自由に委ねているそうだ。ただ、子どもの集中力が途切れないように30分程度で終了する。

子どもたちは、面白い場面で笑ったり、声を上げたりして楽しんでいる様子。大人も笑ったり、合いの手を入れて、絵本の世界に浸った。

うさぎの夢を見たくて前歯を出して寝る女の子の話を読む丸濵さん

屋外の読み聞かせ「真似されたい」

このイベントは、題して「絵本でつなぐ。絵本でつながる。パパたちによるおはなし会」。丸濵さんによると、企画のきっかけはイベントで歌を歌った時に「パパたちの声がよく出ていた」ことだったという。

「パパが恥ずかしがって声を出さないことも多いのですが、善通寺では声がよく出ていました。ならば、パパを主役にした『おはなし会』が出来るのではないかと考えて、協力隊の2人に相談したんです」(丸濵さん)

寿司が相撲をとる絵本を読む中川さん

また、市立図書館を訪れる父子の姿もよく見られ、父親が積極的に育児参加している様子が伺えるという。「パパもやりましょう」と呼びかける発想とは逆で、現実の姿が生きているそうだ。読み聞かせに親子が集うことで、新たな出会いが生まれることも願っている。

「なんだかたのしそう」を読む山本さん

臼井さんは「古墳があることは知っていても、実際に足を運ぶ機会は少ないと感じます。イベントをきっかけに気持ちいい場所であることを体験してもらい、屋外での読み聞かせを真似してくれる人が登場したら嬉しいですね」と話した。

王墓山古墳での読み聞かせを終えたパパたち

「おはなし会」は6回シリーズで、四国遍路74番札所の甲山寺でも開催済み。2023年1月と3月に残り2回を予定しており、市内の名所が会場になるという。今後もユニークな趣向を凝らして、読み聞かせを面白くすることに挑戦する計画だ。

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