フランスでデザイナーとして働く加藤慶子さんは2016年、ベビー・キッズ向けの甚平や半纏をベースにしたオリジナルブランド「Aomame」を立ち上げた。フランスのテキスタイル生地やインドのヴィンテージ生地を使ったアイテムは現地の人に好評だという。
日本では、昔からある甚平や半纏を日常で着る機会が少なくなってきた。なぜ、フランスの人々が日本の伝統的なデザインに惹かれるのか。加藤さんに話を聞いた。

日本とフランスの文化を融合したブランドを立ち上げ

デザイナーの加藤慶子さん。

加藤さんは服飾の専門学校でファッションを学んだあと、東京のアパレル会社に就職しシーズンごとにデザインや素材を決める企画の仕事に5年間携わった。働くうちに、常に流行を追わなければいけないスピード感や、安価で大量生産するサイクルに次第に疑問を感じていったという。

「自社の製品を国内の工場で生産し自分達で売るというスタイルが私に合っているなと思い就職をしたのですが、やはり流行を意識したものづくりには変わりなくて。私は本当にみんなが必要としている物を作っているのだろうかという疑問が常にありました」

ちょうどその頃、東日本大震災が訪れた。未曾有の大災害に、いつどうなるかわからないなら命があるうちに自分がやりたいことをやってみようと思ったという。

自分のものづくりへの姿勢をリセットしたかった加藤さんは、自身に影響を与えたアーティストが多く過ごしたフランスに、1年間ワーキングホリデーで行く決断をした。28歳の時だった。

作業部屋での様子。

「フランスに来てすぐは、語学学校に通いながら、日本人のデザイナーがいるブランドのアシスタントとして働いていました。ものづくりの流れは日本とあまり変わらなかったのですが、私が働いていた会社に限らず、フランスのブランドは自分達が心から好きな物を丁寧に作っている会社が多いなと感じました。ワーホリで滞在している間に後に夫となるパートナーと出会い、自分のやりたいものづくりができる環境に惹かれ、引き続きフランスで仕事をしようと決めました」

フランスで生活している中で、Aomameが生まれたきっかけは長男の出産だった。

「長男を妊娠中に、何か日本っぽい子ども服を着せたいなと探したんですがなかなか見つからなくて。なら自分で作ってみようとロンパース型の甚平を試作してみました。それが、フランス人の友人や親戚に好評だったんです。以前から日本とフランスの文化が融合したものを作りたいなと漠然と思っていたので、ならばロンパース型の甚平を一般の方向けにも提案してみようとブランドを立ち上げました」

フランスで受け入れられる日本文化

着心地が良く可愛いAomameの甚平や半纏たち。

加藤さんがフランスで生活するようになって感じたのは、日本の文化が好きなフランス人が多いということだった。

「少し袖が広いガウンだと『キモノ』と言われたり、健康志向の方が日本食に詳しかったり。他にも浮世絵や古い映画など、日本の伝統文化に惹かれているフランス人は多いです。日本の服がフランスに多く出回っている訳ではないですが、『着物』や『禅』という言葉はフランス語としてよく耳にしますね」

フランス発のテキスタイル生地で丁寧に作られた甚平。

フランス人が興味を持つ多くは、今日本で流行している服ではない。昔から伝わる伝統的なデザインや文化に魅力を感じているのだ。

「日本に昔からある、シンプルなものに美がある侘び寂びのセンスは素敵だなとフランスに来て改めて感じました。海外のデザインは飾り立てるものが多いので、日本の引き算の美学に惹かれる人も多いのではないでしょうか」

自分が作ったものを自分の手で販売する

大人用の羽織りは、作って欲しいという多くの声があり制作している。

日本の伝統服にインスピレーションを受け、フランスを拠点に探したモダンな素材で仕上げたAomameの服は、自分の子どもへはもちろん、プレゼントとして購入する人も多い。

加藤さんは現在、会社員としてアパレルの仕事を続けながら、副業でAomameを展開している。全ての制作をパリで行い、一部の工程は工場や縫製ができる日本人に任せているものの、最後の縫い付けや確認は全て加藤さん自身で行う。

「今後は少しずつ変化を加えながら、今のペースでAomameを続けて行きたいです。私はものづくりをするうえで、自分が作ったものをどういった方が買ってくれて、どういう反応をしてくれたかを見ていきたいんです」

ファッションの最先端とも思えるフランス・パリだが、流行にとらわれず自分のこだわりや価値観でファッションを楽しむ人が多いようだ。日本の伝統的な甚平や半纏が受け入れられているのも、そういった背景があるのだろう。

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