コロナ禍となり丸2年。これまで、学校行事も含めたさまざまなイベントが中止となり、「体験」を通じた子どもたちの学びの機会も減少してきた。
しかし今、政府がマスク着用場面の緩和を検討しているなど、少しずつではあるが社会がアフターコロナに向けて動き出しつつある。そんな中で、福島県いわき市にあるスパリゾートハワイアンズ(以下、ハワイアンズ)は、新しい家族旅行の形を提案している。子どもの心身の成長を促す「旅育」だ。今回、旅育の施策を動かす営業統括第一部 部長の鈴木英輔さんに話を聞いた。

炭鉱から転身したハワイアンズ。東日本大震災で経験した苦境

東京都庁の大型バス駐車場からおよそ3時間半。福島県いわき市の小高い丘の上にある「スパリゾートハワイアンズ」は、ハワイをイメージした国内でも珍しいリゾート施設「常磐ハワイアンセンター」として1966年1月にオープンした。

スライダーや子ども向けのプールなど、家族連れでにぎわう。

いわき市はかつて炭鉱の町として栄えていたが、エネルギーの主役が石油に変わる中で石炭産業が徐々に衰退。地域の次なる産業として生まれたのが、石炭掘削時から大量に湧き出していた「温泉」を活用したレジャー施設だった。

東京ドーム6個分の広さを誇るハワイアンズの屋内は、いつも夏のようにあたたかく、広々としたプールや温泉が配置されている。ファミリー層が楽しめる施設として、創業以来人気を集めてきた。

しかし、そんなハワイアンズも2度の苦境を経験した。1つは多くの人の記憶に残る東日本大震災での営業休止だ。創業後初めての、長期休業。当時31歳だった鈴木さんにとっても、これまでのキャリアの中で忘れられない出来事だという。

「お客様でにぎわっていたハワイアンズが、震災直後は誰もおらず、ひっそりとしている。これはただ事ではないと思いました」

広報を務めていた鈴木さんは、この休業期間に社長のアイデアで決定した「フラガール全国きずなキャラバン」に同行。全国を慰問するフラガールをアテンドした。

「休業で踊る場所を失ったフラガールに行脚してもらうことで、原発事故によってイメージダウンしていた福島県は元気だと全国に伝えたかったんです。震災で苦しむ方々を勇気づけ、復興の後押しになればとも思っていました。でも、結果として勇気づけられ、パワーをもらっていたのは私たちのほうでした」

華やかなフラガールのショー

震災からようやく復興し、2017年には累計の入場者数が6,500万人を突破。しかし、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、4月に再びの全館休業を経験する。

コロナ禍でたどり着いた「新しい旅の形」

7月に営業を再開するまでの3か月間、今度は管理職として部下を率いていた鈴木さんは、震災当時の自分を思い出しながら部下の心境に気を配り、「今だからこそできる仕事」に注力した。立ち止まる時間ができたからこそ、改めてハワイアンズの価値や魅力、強み、弱みなどを話し合い、整理することにしたのだ。

結果として、コロナ後を見すえたハワイアンズのさまざまな取り組みを仕込めたという。そのひとつが、旅での体験を通じて子どもの生きる力を育む「旅育」だった。

「コロナ禍で家にいる時間が増えたことで、家族を大切にする人が増えたように思います。加えて、子どもたちにとっては外に出て活動することが減ったため、体験から何かを学ぶ機会は大きく減りました。アフターコロナに必要な旅とは何かを考えたとき、ハワイアンズで『旅育』の機会を提供することにたどり着いたんです」

コロナ禍の旅育では頑張った自分を認めることも大切だとの思いから、誕生日などの「家族の記念日」を祝うプランも充実させている。

温泉、プール、ショー、ハワイを感じる食事に直輸入のお土産……ハワイアンズは家族が思い切り楽しめる施設だからこそ、子どもたちに魅力的な体験を提供したい。その思いが鈴木さんたちを突き動かし、旅育を提案するホームページの制作や家族で巡るフォトツアープランの企画が進んでいった。

常夏をイメージしたドリンクたち

専門家も絶賛!子どもが楽しんで学べる「旅育」DMを制作

最も特徴的な取り組みが、2021年に第36回全日本DM大賞で銀賞に輝いた子ども向けのDMだ。「日本のハワイ旅券」を銘打ったこのDMは、子どもたちが旅の準備と計画、旅の中でのミッションなどをワーク形式で記入するつくりとなっている。プールやハワイの文化に触れて感じたことを振り返り可能なワークもあるため、後から見返せば家族旅行の思い出にもなる。

2022年はこの旅育DMを公式サイトよりダウンロード可能とする予定。

ハワイアンズのアドバイザーを務め、旅育を提唱する旅行ジャーナリスト村田和子さんも、このDMの企画制作力を絶賛しているという。

「このDMは村田さんの旅育メソッド(R)をもとに、女性の若手スタッフが中心に制作をしたのですが。完成してお見せした際に『これは素晴らしい』とお褒めいただいて。どうしても旅育というと、大人目線で「学ばせたい」という思いになり、子どもが純粋に楽しめる仕掛けに苦労するそうなんです。今回は、村田さんが監修するまでもなく、このクオリティができたことに感心されていました。村田さんの反応を見て、これなら子どもたちに喜んでもらえると自信が持てました」

DM制作はほとんどの工程を部下に任せていたという鈴木さん。ひとつだけ、部下に伝え続けてきたことがあるという。

「私たちの考えたことがお客様の笑顔や喜びにつながるかという視点は、いつも部下に問いかけながら、大切にしています。このDMをつくった時も、ハワイアンズの中をDMを持って探検することどもたちの姿を想像しながら制作したんですよ」

家族でかけがえのない時間を過ごせる「居心地のいい旅先」に

幼い子どもでも安心して泊まれる、敷布団タイプの部屋も。

2021年から本格的に始めた旅育の提案は、これからも継続するという。もちろん、炭鉱時代から培ってきた強い安全意識のもと、ファミリー層が安心して旅ができるよう感染症対策も徹底しているそうだ。

観光業が再び活発に動き出す兆しが見えてきたからこそ、鈴木さんはこれからも「家族にとって居心地のいい旅先」を目指していきたいと語る。

「子ども時代にハワイアンズを訪れた方が、今度は自分の子どもや孫を連れて再び訪れてくれる。そんな世代の循環が続く、家族に愛される施設でありたいなと思います。旅は家族にとって、いろいろな経験ができる絶好のチャンスです。それが残念ながら、コロナによって奪われてきました。これから社会が少しずつもとに戻る中で、安全には十分気をつけながらも、子どもの『今しかない一瞬』を旅を通じて彩っていただきたい。また皆が前向きに旅を楽しめる社会に戻ることを、願ってやみません」

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