鬼の顔でうどんを食す!? 職人の理想詰まった”鬼瓦うどん鉢”の誕生秘話

鬼の顔でうどんを食す!? 職人の理想詰まった”鬼瓦うどん鉢”の誕生秘話
鬼瓦うどん鉢、装飾側。(写真提供:IKUNAS)

香川県高松市にあるイクナスギャラリーには、香川漆器や讃岐のり染め、高松張子や菓子木型など、四国の伝統的工芸品や職人の手仕事などが揃っています。その中で目を引く存在のひとつに「讃岐装飾瓦」があります。
伝統工芸士・神内俊二さんの手がける讃岐装飾瓦の鬼瓦は、力強くもどこかコミカルで愛らしい“鬼の顔”をしており、いぶし銀の重厚な輝きを放っています。

鬼瓦うどん鉢
鬼瓦うどん鉢

手のひらサイズの鈴や飾りものまで、品揃えが豊か。特に「鬼瓦うどん鉢」のインパクトは大。細かな装飾かつ力強さがあり、両手で抱える必要があるほどの重みがあります。さらに鬼の顔を裏返すと牙と角が支えになって、空洞になっている頭の部分が「うどん鉢」として使用できるというから驚きです。

鬼瓦うどん鉢
鬼瓦うどん鉢

鬼瓦と向き合って40年の歳月を重ねた、神内さん。「鬼瓦うどん鉢」を通じて、職人としての道のりと姿・こだわりを取材しました。

“鬼の顔”をした鬼瓦を表現する伝統工芸士へ

神内さんは現在70歳。30歳まで調理師として働いていましたが「自分1人でできる仕事はないだろうか」と考えていた時、瓦職人から声をかけられ、瓦に携わる道へと進みました。瓦を焼いたり粘土を運んだりする仕事を「楽しい」と感じた神内さん。そこで「鬼瓦」と出会います。

鬼瓦とは、日本建築物の棟端部などに設置される板状の瓦を総称したもの。魔除けとしての意味合いが含まれており、建築用の鬼瓦は雲や水などの模様を取ったものが多く、鬼の顔を形取ったものでなくても「鬼瓦」と呼ばれています。

神内さんは修行を積み、鬼瓦を追求する過程で「“鬼の顔”をした鬼瓦」を作り出します。かっと見開いた目が印象的で、どこか愛らしくもコミカルでもある「鬼の顔」を表現するようになりました。

鬼瓦うどん鉢
鬼瓦うどん鉢

イクナスギャラリーには、香川県三木町の獅子がモチーフになったり、四国八十八ヶ所の寺に設置されたものを参考にイメージ画が描かれたりした、さまざまな鬼瓦が並んでいます。建築用鬼瓦よりもコンパクトで、手のひらサイズのものが特徴的。屋根の上にあること以外にも、気軽に「現代風にアレンジされた、魔除けの鬼瓦」を楽しめるのが、伝統工芸士・神内さんの生み出す「讃岐装飾瓦」なのです。

鬼瓦うどん鉢
鬼瓦うどん鉢

試行錯誤を経て誕生、瓦でできた”鬼の顔”のうどん鉢

神内さんは「瓦で“うどん鉢”ができないか」と相談を受けたことをきっかけに、「”鬼の顔”がついた、瓦のうどん鉢」のアイデアを思いつきます。

「製造工程は、まず鉢の部分を作ります。その後、粘土をつけながら形を整えるのですが、粘土が柔らかいので手早く作る必要があります。形取ったら1週間から10日ほどで乾燥させ、その後、焼きに入ります」

うどんを食べる時に「邪魔にならないように」と角や皮膚や牙、花などの華やかな装飾のバランスや配置を考えたそう。鉢を支える機能も持ち合わせている「鬼瓦うどん鉢」は、試行錯誤を重ね、2年かけてようやく完成。現在のラインナップ「獅子」「牡丹」「桃」の3種類は、それぞれ顔つきもデザインも違っています。

鬼瓦うどん鉢
鬼瓦うどん鉢

この鬼瓦うどん鉢に、実際にうどんを盛って「食べてみました」という神内さん。感想の一言は「食後、洗うのが大変だった」とのこと。さまざまな突起部分が、洗うのに大変だったそう。

しかし、特別感あふれる一杯のうどん。食する時間もまた格別です。日常使いには難しいかもしれませんが、特別な時に使用するのもまた一興かもしれません。大きさも手頃なので、玄関先の装飾・魔除けとして購入する人もいるそうです。

理想の発色を追求して

鬼瓦うどん鉢や他の讃岐装飾瓦で目を引くのが、輝かしい色合いです。銀色と黒色が混ざり合った深みと輝きを持ち合わせている瓦の「いぶし銀」は、神内さんの理想の色。発色は微妙な焼きの温度調整で変化するので「思うような色合いを出すために、何度も試行錯誤を繰り返した」そう。理想の「いぶし銀」と出会った日のことを、今でも鮮明に覚えていると神内さんは語ります。

「何回やっても思うような色に仕上がらず、どうなるんだろう、できるんだろうかと不安でしたが、自分に『頑張れ、頑張れ』と言い聞かせていました。一窯の中の20個のうち、2個だけが、思うような色だったんです。偶然できたものではあったのですが、そこからは温度計とストップウォッチを持ち出して『なぜこの発色になれたのか』を研究しましたね」

鬼瓦うどん鉢
鬼瓦うどん鉢

考えて調べて作り上げ、ようやく今の「いぶし銀」を安定的に出せるようになった神内さん。工房には、調整のための残骸が山のようにあるそうです。

「今度は釉薬をかけてみたいんです」

神内さんは今、新しいものへ挑戦する姿勢を見せています。どんな色を想像しているのか聞くと「赤だけど黒っぽい、深みのある色」。偶然の出会いから生まれる「理想の発色」を求めて、挑戦を止めない神内さんの目は、輝きに満ち溢れていました。

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