小さな山々に囲まれ、田んぼや畑が広がる鳥取県南部町。
そんな南部町で、里山の暮らしや人の温かみを体験してもらえる場所として2019年4月「てま里」はオープンした。カフェとゲストハウス、そして地域の人や旅人が集まって交流できる寄り合い場があるユニークな場所だ。また2021年12月には新たな取り組み「親子ワーケーション」も実施した。

趣のある古民家を改装したてま里の前には庭園が広がり、四季折々の風景が楽しめる。

てま里でゲストハウスの運営と英会話教室「SCOPE WORLD」で教師をしている井上可奈子さん。てま里での取り組みや子どもたちへの思いについて聞いた。

ゲストハウス×英会話教室

韓国のインターン生と地域の人でホットクを食べながら交流している様子(2019年撮影)

「教育に興味があったので、大学で日本語教師と英語教師の免許を取りました。そのまま先生になる選択肢もありましたが、メディアやイベント関係の仕事など、外部から教育に関わりたいと思い、地元広島のラジオ局に就職しました。音楽も好きだったのでエンターテイメントとして仕事は楽しかったのですが、もっと教育に関われることはないかと常に考えていました」

そのときに思いついたのが、ゲストハウス×英会話教室という形だ。
その後、5年務めたラジオ局を退職。英会話の先生になるための実績として、中学校の英語教師として2年間働いた。

「先生として働きだして1年半が過ぎた頃、私がゲストハウスをやりたいことを知っていた友人が、鳥取で古民家活用をしながらゲストハウスやカフェを運営する人を募集していると教えてくれました」

鳥取県南部町に初めて訪れた時、自分が育った広島の田舎に似ていてどこか懐かしい雰囲気を感じたと言う。井上さんは、ここでゲストハウスと英会話教室をやろうと直感的に思い、自分の夢を形にしていった。

親子ワーケーションという新たな形

地域の農家の人と竹の灯篭を作っている様子

ゲストハウスがオープンして1年が経つ頃、新型コロナウイルスが蔓延し海外からの旅行客は少なくなった。そんな時、鳥取県を上げて取り組みが始まった親子ワーケーションの話が舞い込んだ。
親子ワーケーションは、旅先で親が仕事をしている間に、子どもたちが地域の人とさまざまな体験を通して自然とふれ合いながら楽しめる旅の新しい形だ。
2021年12月には親子ワーケーションと農泊を組み合わせたモニターツアーが開催された。
2泊3日で行われたツアーでは、農家での収穫体験や竹を使った工作、また南部町の高校生たちと鳥取の給食を一緒に作るプログラムなどが行われた。

子どもたちが地域の人達とアクティビティを楽しんでいる間、親は寄り合い場で仕事が出来る

「親子ワーケーションは、新しい働き方の応援になるし、南部町の人たちにとっても子どもたちが来てくれることで町が賑やかになります。地方の高齢化が進む中、親子ワーケーション通して子どもたちが南部町に来てくれて楽しみながらこういう場所があるのを知って欲しいです。参加してくれた人にとって、鳥取県南部町が第2の故郷になってくれたらなと思います」

子どもたちにいろいろな大人を知って欲しい

ドイツの国際ボランティアに参加したときの写真(右から2番目が井上さん)

井上さんは、子どもたちにゲストハウスにある英会話教室や親子ワーケーションを通じて、いろいろな価値観や職業を持っている大人がいることを知ってもらいたいと話す。

「旅が好きだったので、大学時代はリュックひとつで国内外のいろいろなところへ行きました。そこでゲストハウスをよく利用していたんですよね。こういう場所にはおもしろい大人が集まるということを実体験として知っていた。そういう体験ができる場所を私がつくってあげたら、子どもたちがいろいろな大人とふれ合うことができて視野が広がるんじゃないかと思ったんです」

ゲストハウスは相部屋タイプのドミトリーのほか、離れの和室もあるので子ども連れや家族の利用も出来る

てま里のゲストハウスはドミトリーのほか離れの和室もあり、ファミリーも宿泊しやすい環境が整っている。

「親子ワーケーションも、参加した子どもたちが地域の人の仕事や生活に触れることができるのでとてもいい取り組みだと思います。てま里ではもちろん、鳥取県として継続的に親子ワーケーションを続けて行きたいですね」

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