新潟県佐渡市を拠点に活動し、52の国と地域で6,500回を超える公演を行う太鼓芸能集団「鼓童」。2021年に創立40周年を迎え、9月の佐渡を皮切りに、11月から日本各地でのツアーを開始します。

今回取材したのは、若手のホープ・詫間俊さん。代表曲の1つであり、力強さが求められる演目『三宅』ではソリストを務めるなど、注目を浴びています。「聴いた人の人生を変えてしまうほどの力強い太鼓」を理想とする詫間さん。鼓童での経験を経て成長を重ね、柔軟な姿勢で変化する「今の姿」を追いました。

鼓童の法被に身を包む託間俊さん。(C)岡本隆史

『三宅』のソリストに選ばれる

演目『三宅』は3台の太鼓が用いられ、1台の太鼓に2人の演者がつくスタイル。計6人で演奏されます。ソロとはセンター2名を指し、客席からも注目を浴びるパートです。

『三宅』の演者は、大きく腰を落とし全身の力を使って太鼓を打ち込みます。太鼓演奏の1つの典型とも言われるその姿は、粋で勇ましく、鼓童メンバーに限らず多くの太鼓奏者の憧れとも言われています。

『三宅』(C)岡本隆史

詫間さんが『三宅』のソリストに選ばれたのは2018年。佐渡に来て3年目、まだ準メンバーの頃でした。通常ソリストに選ばれるのは、舞台に立って4、5年目ほど経験を積んだ、技術・体力が伴うメンバー。詫間さんのケースは非常に珍しいものでした。

「ソロコンペに挑んだ際は無知なところも多く、メソッドもまだまだ。しかし、自分の中に“勢い”だけはありました」

勢いを評価されたと同時に、重責への戸惑いもありましたが「“パワー系”の演目人生をきわめてみよう」と決意。「見ても、聴いても凄い」そして「音が凄い」太鼓を目標に、日々鍛錬を重ねています。

音の力強さが、打つ姿からも伝わってきます。(C)岡本隆史

「体力が必要な演目では、後半や終盤、疲れが出てしまいます。しかし、鼓童が大切にするのは『音』。たとえどんなに疲れていても『音で届ける』ことをやり遂げたいんです」

共同生活で生まれる『だよね』の瞬間

詫間さんは、香川県三豊市出身。先輩である住吉佑太さんや山脇千栄さんと同じチーム「響屋」で経験を重ねて育ちました。2人の姿を見て、自身もプロになること夢見て、高校卒業後すぐに佐渡島に渡り、鼓童の研修生となりました。

同期は仲間かつライバル。年齢や生活環境も違う人たちと共同生活を送るうちに「大切なのはチームワーク」だと気づいたと言います。

「演奏中、ソロ演者を沸き立たせるため、周りの演奏者がアドリブを行うことがあります。バッキング(他の演者)同士で音を掛け合いながら演奏するのですが、互いに『だよね』と感じる瞬間があるんです」

『海鳴り』(C)岡本隆史

舞台上のアドリブが合致した時は「何とも言えない気持ちよさがあります」と詫間さんは満足そうに語ります。それは、自分がソリストの時も同じ。バッキングの人たちが自分を沸き立たせようとしているのが伝わり「応えよう!」と奮い立つといいます。

「日頃、何気ない話をすればするほど、舞台上でも繋がれるような。『だよね』が増えるような気持ちになるんです。練習と、何気ない話。この2つのバランスが、演奏に直結すると思うんです」

演目『三宅』にて。左が詫間俊さん。(C)岡本隆史

共同生活で育まれたものが、舞台上で演目として花開く瞬間。さまざまな演者の思いが重なり、チームワークは「音」となって会場に響き渡ります。

1人の人生を変えるような演奏を

「今、変わりつつあるる自分を感じています。勢いに頼っていた頃に比べると、今は肩の力を抜いています。そして次を模索しています」と、詫間さんは柔軟な姿勢を伺わせます。自身の変化に怖さや不安もありましたが、周囲のアドバイスを受けながら、焦る気持ちを止めたと言います。そこには、共に舞台に立つ先輩の影響がありました。

「最年長の先輩は、僕より45歳ほども年上かつ現役。舞台で目の当たりにする大先輩の太鼓は、まるで生き方を見せつけられているようで、自然と感動し、涙するんです」

『屋台囃子』(C)岡本隆史

自分も変えていきたい、と思う詫間さん。今できることから経験を積み重ね、理想の姿へ近づいていきたいと語ります。

「今の僕が目指したいのは、1人の人生を変えるような演奏。疲れたり、元気がなかったりしても、僕たち鼓童の演奏を聴いて『頑張ろう』『元気を出して仕事に行こう』と思ってくれる人1人1人のために、演奏し続けたいです」

詫間俊さん。

「鼓童ワン・アース・ツアー2021年~童」は、2022年7月までに全国で40公演を行う予定です。11月14日には、詫間さんの地元、香川県でも公演があります。「地元への恩返しは、地元で演奏すること。それが唯一自分にできること」と心掛け、詫間さんは入念に準備を続けています。

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