手書きのカブトムシの絵と、そこにそっと飾られた一輪の花。とおやまたかし (@TakashiTohyama)さんのこの一連のツイートには、14.8万件以上のいいねがつき、注目を集めています。そこには小学1年生になったばかりの息子さんとお父さんの物語がありました。

カブトムシ君と息子のはじまり

カブトムシ君は、とおやまさんの知り合いからもらって、2匹家にやってきました。息子さんは、家の中で生き物を育てるということが初めてでした。

「(飼い始めた)最初のうちは朝早く起きて、『カブトムシ君起きているかな』と見て、『夜行性だから、夜になるとご飯食べ始めるから』と言うと、夜になって『ご飯食べてるかな』って見に行ったり、僕がふと気づくと虫かごの前で話しかけたりするなど、カブトムシ君をかわいがっている様子はありましたが、何日か経つと、飽きてしまったかなというそぶりもありました。はためから見るとさっぱりしている様子でした」

カブトムシ君との別れ

そんなある日、とおやまさんがカブトムシ君のご飯をかえた時、元気がありませんでした。

「僕は、カブトムシ君の寿命を感じ、『死ぬ前に今まで遊んでくれてありがとう』と言っておきな。と息子に伝えました。その時は、僕が息子に伝えるだけで終わりました。そして、僕と息子が次にみた時には、虫かごの中で、1匹のカブトムシ君が死んでいました。息子にとっては、長くお世話した生き物が死ぬという初めての体験でした」

息子さんは、最初はあまり反応がない様子だったといいます。お母さんが「もう(カブトムシ君に)会えなくなるね」「遊んでくれてありがとう」って言おうねと話をしたそうです。すると息子さんは、走っていなくなってしまいましたが、次に戻ってきたときには、号泣していましたといいます。

「僕はそこで初めて、あっ(息子は)悲しんでいるんだ。と分かりました。それから30分くらい座布団とかクッションにくるまって泣いて泣き止んでカブトムシ君の死んだ姿を見に行っては、また泣いてを繰り返していました。僕は、『息子なりに受け入れようとしているんだろうな』と思い、寄り添っていました」

カブトムシ君の絵

泣いている時に、息子さんが画用紙を探したそうです。

「息子は、感情が高ぶるとよく手紙を書くので、僕は、カブトムシ君に手紙を書くんだろうと思っていました。そうするとカブトムシ君の絵を描いていました。僕は、カブトムシ君を死んだ方の1匹だけじゃなく寂しくないように2匹描いたところがすごく胸にきました」

息子さんがかいたカブトムシの絵(とおやまたかしさん提供)

とおやまさんは、画用紙でかいたカブトムシ君の絵をスキャンして、業者に頼んでキャンバスの額装にして納品してもらいました。

「最初に、『この絵、父ちゃんがすごく好きで、(息子が)カブトムシ君のことを大切に思って絵を描いたことは物凄く素敵なことだと思うから、それをおうちに飾ってもいい?』と聞いたら『いいよ』と許可がおりました。絵が届いた日は、すごく嬉しそうでしたね」

絵を飾ることにした理由

とおやまさんに、なぜ息子さんの絵を飾ろうと思ったのかを尋ねました。

「もうあの感情は2度とないと思うんです。しかも絵にしなくていいのに、彼がエネルギーをこめて絵にしたという行動がありましたから。普段だったら、押し入れにしまってしまうけど、そういうのって酸化してしまいます。今は、スマホで写真を撮ると何千枚っていうデータがありますけど、外に出ないですよね。『カブトムシが死んだ』ってことを忘れたような時でも、彼の残した絵だけは残そうと思いました」

しかし、話はこれで終わりません。しばらくして、母の日に保育園で作ってあげたカーネーションをお母さんに「ちょうだい」と言って、絵の上にたむけていたのです。

「飾り方がすごいなと思ったし、これで完成したんだねと思いました」

カブトムシ君の絵にお花をたむけた時の写真(とおやまたかしさん提供)

家族の記録を残していく

とおやまさんに、このツイートを見た人へのメッセージをもらいました。

「これから写真集を作ろうと思います。ただ写真にするのではなくて、本にする。そうやって家族の記録を電子データではなくて物にして残そうと思っています。有名な絵を飾るのもいいけど、子どもたちが描いたなんでもない絵を飾るのもいいと思います。僕らにとってはあの一枚の絵に価値があります。そういったことに共感してくれた人たちが「そういうのいいよね」って思ってくれたのかな。と思います。ぜひ、みなさんもよかったら残してみてください」

とおやまさんは、今回のことをごくありふれた日常のことと話してくれました。しかし、忙しい毎日に、生き物が死んで悲しい息子さんの気持ちをしっかりと受け止め、「その時の感情を大切にしてあげたい。してほしい」と考えるお父さんの愛情に、筆者は心を打たれました。

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