「当たり前の1日は、当たり前でない。幼い頃に亡くなった姉と、犬のリリーが、私に教えてくれました」

そう話すのは、トーラス(神奈川県綾瀬市)の社長・赤津徳彦さん。姉と飼い犬をがんで失った悲しい経験を乗り越えて、ペットの健康を支えるための歯磨き用品やサプリメントを開発・販売。自ら講師としてペットの健康に関する啓蒙活動も行っていて、2021年6月にはペットの歯磨きオンラインセミナーを開催しました。

オンラインセミナーで「ペットの健康を守るには、日々の歯磨きから」と実践する赤津さん

姉、そして愛犬との別れ

「私には3歳年上の姉がいました。私がいたずらしても、そっとかばってくれる優しい姉でした。姉は癌を患っており、入退院を繰り返す日々を送っていました。まだ幼かった私は、姉と一緒に遊べず寂しい思いをしていました。姉は10歳で亡くなってしまい、私は辛くてたまりませんでした」

大好きな姉を失い、深い喪失感を抱いていた赤津さんの元にやってきたのが、リリーと名付けられた1匹の犬でした。

「私にとってリリーは、まるで妹のような存在。リリーがいてくれたおかげで、随分と救われました」

幼い頃の赤津さんと、愛犬リリー。

学校から帰るとすぐにリリーと一緒に遊びに行き、毎日散歩に連れて行きました。リリーと共に過ごすことで、赤津さんは次第に元気を取り戻すことができました。赤津さんの傍にはいつも、リリーの存在がありました。

「“いつまでもリリーは元気なんだ”と思い込んでいました。でもリリーが、がんになってしまい、辛い治療を強いられてしまうことになり……本当は助けてあげたかったんです」

当たり前のように思う明日も、健康な毎日を過ごせることも、保証されないものだと気づいた赤津さん。姉とリリーの病気、そして喪失を通じて、「何かできることはなかっただろうか」と自問自答し、健康の大切さについて深く考えるようになりました。

「リリーを失った後も、常に赤津家には犬の存在がありました。病気で亡くなってしまった子に対しては『辛かったね、ごめんね』と後悔に近い思いを抱いたのですが、老衰で亡くなってしまった子には『楽しかったよ、本当にありがとう』と感謝を抱きながら見送ることができたんです。目の前で亡くなってしまうことは同じなのに。だから『ペットに対して後悔しないため、病気にならないよう、日々全力でお世話しよう』と思ったんです」

愛犬のボイくん(左)、マウイちゃん(右)。マウイちゃんは2021年4月に急性膵炎で亡くなった。

健康を損なうことで不幸になる犬や猫を減らしたい

「私が犬なら、歯磨きを頑張ったら褒めてもらいたいし、歯磨きには漂白剤を使ってもらいたくない。遊びの中で歯磨きをしてくれるほうがいいなとか、身体によいものを食べたいなとか、いろんなことを考えます」

赤津さんは「ペット視点」で、商品コンセプトからスペック、製造業者の選定からパッケージ制作まで、スタッフと協力しながら商品開発に関わっています。

歯磨きでも、シート、歯ブラシ、おやつなど様々なタイプがあります

「例えば、人間の歯磨きは香り付きが当然です。しかし、犬用の歯磨きシートに香りがついていると、歯磨き前からシートを噛んでしまう可能性もあって危険なんです」

赤津さんが犬や猫の習性を考慮して開発した歯磨きシートは無臭で、なめるとミルクの味がします。
「シートは無臭、でも口の中に入るとミルクの味がします。犬や猫が『これはうまい!』と感じてくれたら、次の歯磨きもスムーズになるんです」

また赤津さんはペットのための歯磨きセミナーの講師も務め、多くの人たちの相談に乗っています。健康を損なうことで不幸になる犬や猫を減らしたい。そのためにも直接触れ合えるセミナーや啓蒙活動は今後も精力的に続けたい、と赤津さんは考えています。

ペットショップ向けの講習会で登壇する赤津さん

コロナ禍で見つけた「本当にやりたいこと」それは、ペットと人の集まる”場づくり”

ラグビーのトップリーグ、IBMビッグブルー(現ビッグブルース)で活躍する赤津さん(右)

赤津さんは、かつてラグビーの強豪チームに所属し、日本代表を目指すほどの実力を持っていました。ラグビーで学んだ「目標を持つことの大切さ」を胸に、スタッフと共に日々切磋琢磨しています。父が創業した“ペットが幸せになると、みんなが平和になる”トーラスの事業に、やりがいを感じているといいます。

また赤津さんは、人とペットが共に笑顔になる場としての「セラピー犬のいるドッグラン」を計画中。こちらは会社の事業ではなく、プライベートとしてやろうと心に決め、1人でNPO法人を立ち上げました。

「ペットも犬猫も、楽しく元気で過ごせる場所には、きっと笑顔が溢れているはず」と赤津さんは信じています

「ペットは、人にとって無くてはならない存在だと思います。しかし諸事情のため、飼いたくても飼えない人もたくさんいます。私の夢は“人が集まる場所にペットがいること”のお手伝い。お年寄りから子どもまで、犬好きが触れ合える場所があると、そこには自然に笑顔が溢れ、みんな前向きになれるんじゃないのかな、と信じています」

自分の経験から、ペットがもたらす笑顔の力を信じている赤津さん。ラグビーで培った力をばねに、新しい目標に向かってこれからも走ります。

ペットの健康を守るために、これからも力強く走り続ける赤津さん

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