eスポーツと英会話を掛け合わせた、これまでにない教育の形を模索する企業があります。「ゲシピ」と名づけられたその会社は、2018年に創業。ゲーム攻略アプリの開発などを経て、2020年からeスポーツ英会話の実用化に乗り出しました。

新たな事業が生まれるきっかけになったのは、新型コロナウイルスの流行。全国的に外出自粛が呼びかけられた結果、自宅で過ごす時間の多くをゲームに費やす子どもたちが急増したからでした。ゲシピの代表取締役CEO・真鍋拓也さんは、eスポーツ英会話の狙いについてこのように語ります。

「コロナ禍で外にも遊びに行けないし、友達とも会えないし。そんななかで彼らが友達とコミュニケーションを取る手段っていったら、ゲームなんですよね。オンライン通信でずっと話してる。これを取り上げるっていうのは、違うんじゃないかなと」
「増加するゲームの時間を、単なる消費の時間ではなくって教育の時間に変えてしまえば、価値変容してしまえば、少しはエクスキューズというか、親としても『それだったらいいか』となるし、子どもの人生のプラスにもなるんじゃないかと思って」

子どもにとっても、親にとってもうれしい英語教育は、いまや順番待ちが発生するほどの人気に。「価値変容」の中身について、詳しく話を聞きました。

ゲームに育てられた過去が、起業の原動力に

現在、レッスンを担当するコーチ陣の多くも、ゲームにより社会性を培ってきた経験があるという

真鍋さん自身、中高生のころはいわゆる「ゲーム小僧」だったそう。足繁くゲームセンターに通っては、当時ブームになっていた対戦格闘ゲームに打ち込んでいました。塾に行く時間を注ぎ込んでまで夢中になった背景にはもうひとつ、大きな理由があったといいます。

「ゲーム好きっていうのもあるんですけど、そこに集まる独特のコミュニティがすごく好きだったんですね。中学生、高校生、大学生、スーツを着た社会人の人まで、多種多様な人が集まってますと。しかも年上だから偉いわけじゃないんですよね。ゲームが強い人が一番偉いんですよ」

ゲームという共通言語に基づく世代を超えたつながりに、居心地のよさを覚えていた真鍋さん。そのときには意識しなかったといいますが、他の誰かと切磋琢磨することの大切さを学ぶと同時に、歳の離れた人と話すことが苦にならなくなっていたとも振り返ってくれました。

この「原体験」の記憶を呼び起こしたのが、ゲシピの創業に前後して高まりつつあったeスポーツ熱です。

「改めて起業しようと考えたときに、あのコミュニティってすごくよかったし、あれによって成長させてもらったって思いがすごく強いので、ゲームを通して成長するってことが成立するんじゃないかと」

ゲームを通して社会性を培ってきた真鍋さんは、いまがその価値を再び提供できるチャンスと感じ、10年以上勤めた大手IT企業を退職。会社員時代に新規事業のプロジェクトリーダーを任されていただけあって、不安も楽しみに変えながらゲシピという会社の舵取りを担うことになりました。

コロナ禍を克服する過程で、eスポーツ英会話が生まれた

創業当初のゲシピは、動画を用いたゲーム攻略アプリの開発に着手。続いて、eスポーツに必要なスキルを直接学べる、eスポーツジムの事業化へと軸足を移していきました。この構想は、デジタル領域における沿線開発を目指す東京メトロとの協業にまで発展。しかし、背後では新型コロナウイルスが猛威を振るっており、店舗事業であるeスポーツジムを補完する事業の創出を迫られることになりました。

苦境に立たされるなか、着目したのが英会話です。学生時代、外国語学部に学んだ真鍋さん。専門教育を受けても会話力が身につくとは限らないとの問題意識を、かねてから抱えていたといいます。

「結局使ってないからなんですよね。どんだけヒアリング鍛えて、単語大量に覚えて、文法理解しても、使わなければそんなもん使えるようになるはずがない」
「コロナ禍で留学が厳しいのであれば、eスポーツの世界を使って、そこが海外のような実践の場になれば、話すっていうところに特化したトレーニングができるんじゃないかって考えて」

現在、多くのオンラインゲームは、広大なマップを制約なしに探索できる「オープンワールド」と呼ばれる方式が主流。リアルな世界がもうひとつあるような自由度の高さに加え、プレー中のボイスチャットが一般化したことから、攻略にはチームを組むメンバーとのコミュニケーションが重要になっています。真鍋さんは、そこに新たなビジネスの可能性を見出したのです。

レッスンでは英語での励まし合いなど、スポーツマンシップの醸成にも力を入れている

バーチャルな世界でのやりとりが活発化するよう、サービスの設計は入念に行いました。英語が堪能なコーチとのマンツーマン、生徒のみといったパターンを試行した末に行き着いたのが、コーチ1人に生徒2、3人という学習スタイルです。

「僕らがちっちゃいころって、近所にゲームうまいお兄ちゃんとかいたじゃないですか。やっぱりゲームがうまくて優しいお兄ちゃん、お姉ちゃんって、子どもたちからすると憧れになるんですよね。懐いていくし」

eスポーツ英会話の形を決定づけたのは、真鍋さん、そしてeスポーツを通した質の高い教育を提供したいと願うコーチ陣に共通する体験。そこに英会話を紐づければ、おのずと学習効果も高まるはずという見通しがありました。

「子どもたちに英語を話したいって欲求、あんまりないじゃないですか。どっちかっていうと、親のエゴで。ただ、子どもたちが『こんなお兄ちゃんみたいになりたい』っていうのが出てくるんですよね。英語めっちゃ話せるし、ゲームうまいし、おもしろい。すると、今度は英語を学ぶっていうことが自分の欲求に変わるので」

eスポーツ英会話が世に出たのは、2020年5月のことでした。