岡山県奈義町は、江戸時代から伝わる伝統芸能「横仙歌舞伎」が有名です。中島東地区にある松神神社には、歌舞伎舞台が残されており、春には定期公演を続ける現役の舞台として、1963年に岡山県重要有形文化財に指定されています。

 ※横仙は、奈義町の辺りを指す古い地名で「山の横」という意味

新型コロナ流行前。たくさんの観客が訪れていました。

 往時には町内だけでも十数棟あった神社境内の舞台も、現在はこの「まつがみさん」だけになりました。場面転換など、見せ場ともなる回り舞台は現役で使われていて、日本でも数少ない貴重なものです。

回り舞台

地域の皆で改装し、伝承の基地をオープン

 この松神神社のとなりに、横前歌舞伎伝承の基地として、「松神館」が2021年2月に開館しました。古民家をリノベーションした稽古場です。歌舞伎舞台と同じ大正時代から建っていた民家だったため、中に入ると骨組みを残した茶色の柱が存在感を醸し出していました。

松神館内。梁が素晴らしい。

 「玄関部分の柱はわしが塗ったんよ。塗った人によって色が違うからなぁ」と話してくれたのは松神座座長の鷹取さん。自ら幅広い役をこなし、毎年2か月もの練習を重ねて歌舞伎公演に臨んでいました。

松神館前にて。松神座座長・鷹取達さん

 柱の色付けは、松神館が建設された中島東地区の住民たちに声をかけ、参加できる区民自らの手で行いました。総勢30人ほどの大人たちが和気藹々と柱の色つけを楽しみました。「改装の呼びかけにかなりの人が応じてくれて、大変ありがたかった。男性の参加者が多かったです。」と中島東区長の來代さんは話します。

松神館に塗装をする中島東地区の住民(來代さん提供)

公演はなくとも、歌舞伎の魅力を届けたい

 2020年は、コロナ禍の影響で歌舞伎が始まって以来、初めて公演中止となりました。中止の選択をしたものの何かできることはないかと、奈義町教育委員会の寺坂さんが考案したのが、YouTube『よこぜん歌舞伎チャンネル』です。寺坂さん自ら編集・投稿をしています。

 チャンネルには、歌舞伎場の様子や、寺坂さんが講師を務める子ども歌舞伎教室の練習風景が投稿されています。動画を見て、歌舞伎に興味のある群馬県の中学生から、学校で歌舞伎について発表するため、演出や衣装・化粧の仕方などを教えて欲しいと書かれた手紙が届いたこともあります。「数ある歌舞伎の中でうちを選んでくれて励みになる」と寺坂さんは話します。

コロナ禍に負けず、伝統を守っていく

公演再開に向けて意気込みを話す3人(左から教育委員会・寺坂信也さん、松神座座長・鷹取達さん、中島東地区長・來代貢さん)

 地域の皆さんで上演される歌舞伎は、毎年たくさんの観客に届けられてきました。定期公演が初めて中止になった2020年に引き続き、2021年の春公演も中止予定ということでとても残念ですが、3人の話からは、秋には公演したいという意気込みもうかがえました。また、「松神館で、効率の良い練習方法に変えて練習をしたい」と既に今後の公演に向けて盛り上がって話す姿からは、歌舞伎に対する熱意を感じました。

 コロナ禍に負けず、地域全体で盛り上げようと奮闘する、松神座の歌舞伎公演を楽しみにしています。

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