日本の繊維製品の強みでもある、高品質の担保。その裏では、品質基準に満たなかった「規格外」の生地も大量に出ています。そんな、多くが捨てられる運命となる規格外の布を、建材やインテリアなどに使える「新素材」に生まれ変わらせた会社が、岡山県にあります。

「捨てられる布」が美しい意匠を演出

新素材「ニューノス」をアートパネルとして活用

 新素材の名前は「NUNOUS(ニューノス)」。NU=新しい、NUNO=布、US=私たち・明日、を組み合わせて名づけられました。色彩や製織時の欠陥で「規格外」となった作業服などの布地を、素材1cmあたりに100枚ほど(※生地の厚さにもよる)積層していて、切断すると、断面が抽象画や天然石を思わせるような、ひとつとして同じものがない、独特の模様に生まれ変わります。3月に特許を取得したブロック型の「STONE」と、STONEを薄いシート型にした「SKIN」の2種類があり、既に東京都や岡山県のホテルでアートパネルとして採用されるなどしています。この新素材を生み出したのは、1880年創業の染色加工会社「セイショク」(岡山県倉敷市)です。

セイショク 姫井明社長

「(最初に切断面を見たときは)美しさに感動するのと同時に、可能性、夢を感じましたね。」そう話すのは、2012年に31歳で代表取締役に就任した、姫井明社長。売上額は大きいものの、毎期損失を計上していた本業をこの先も継続していくためにと、2012年末に新規事業プロジェクトをスタートさせました。そこで目をつけたのが、自社で年間約10万㎡の廃棄を出していた、規格外の布の活用でした。もともとは、産業資材のような形で有効活用したいという思いで始めましたが、その意匠性を目の当たりにしてから、考え方が変わってきたといいます。

水平に切ると抽象画や天然石のような(左)、垂直に切ると地層のような模様に(右)

「最初はとにかく、どんどん使えるものをというイメージでいましたが、(見た瞬間)これはそういうふうに使っちゃいけないなと。インテリアとか、人の生活するそばで見ていただく、もしくはプロダクトとしてそばに置いていただくほうがいいと思いました。誰もやっていないことだし、捨てるものに対して新しい命を与えられるなと。」

全てがゼロからの研究開発

NUNOUS事業部 事業統括部長 西崎誠一郎さん

プロジェクト立上げ当初からリーダーを務めているのが、西崎誠一郎さん。製造や加工など、全く自社にノウハウがない、ゼロからの研究開発だったことが、大変だったと話します。「とにかく全てが説得ベースの話でした。協力先を探すときに、『新素材なんで加工してください』って言うと、大体『できません』と言われるので。スムーズに進んだことは何一つなかったですね」

1mm以下の薄型化に成功した「SKIN」

試作先が見つかっても、うまくいかないとなるや協力を打ち切られることもしばしば。それでも、さまざまなところに体当たりし、つながり、紹介を受けるなどして新たな協力先を見つけ、少しずつ開発を前に進めてきました。さらにSTONEが完成してからも、そのコストの高さから単独ではビジネスとして成り立たず、さらなる研究開発の末に薄型のSKINを完成させたことで、ようやく事業化の目途がつきました。2021年に正式に事業化するまでに、実に9年の歳月を費やしました。

世界で唯一のアップサイクル素材 ブランド化へ

「廃棄」という会社のマイナス面から新しい価値を生み出した

ニューノスは、捨てられるものを加工して新たな付加価値を生み出す「アップサイクル」素材です。廃棄(焼却)する際に出るはずだった大量の二酸化炭素が出なくなることから、環境に優しいというストーリー性を持っています。また、非常に手間がかかる工程のため、他社の事業化が困難な「自分たちにしかできない事業」だと、セイショクは考えています。

今後は、インテリアや建材、什器、家具などの大型のものと同時に、財布やカードホルダーのような小型の製品も世の中に広めていくことで、作業服などの本業とは違う形で、人々の生活の一部にしてもらおうとしています。

製品の販売は自社のECサイトで行っている

「今はまだ、ある方が珍しいような素材ですが、『見ただけでご理解いただける』。そういう素材にしていきたいです。そしてこの考え方は、日本人とか海外の人とかで変わるものではないので、海外での展開も考えていきたいです」姫井社長は、こう展望します。

ニューノス「STONE」

最近では自社での販売だけでなく、ストーリーに共感した岡山県内外の会社と、その会社で出る規格外の布をニューノスとして生まれ変わらせるべく、開発を進めているというセイショク。周囲の企業も巻き込んで、「持続可能な生産」を体現する旗手となれるか、注目です。

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