岡山県で生まれ育った人ならおそらく一度は訪れたことのある池田動物園(岡山市北区)。背後に山を抱く住宅街の一画にあり、上皇陛下の実姉、池田厚子さんが園長を務めることで知られる由緒ある動物園だ。1953年に創設され、長く市民の憩いの場として親しまれてきたが、時代の流れとともに客足は減少。開園68年を経て施設の老朽化も進み、近年は資金不足で経営が厳しい状況にある。

そんな池田動物園を応援しようと、市民有志たちで立ち上げた「池田動物園をおうえんする会」がさまざまな活動を通じて運営をサポートしている。

動物園は人々に癒しや安らぎをもたらし、思い出を作る大切な場所。そんな動物園の存続にかける思いとは−−。

動物たちの遊具や設備は資材を工夫し、飼育員が手作り。この取り組みで2018年に環境エンリッチメント大賞の奨励賞を受けた

「自分の力が役に立つならば」。始まりは動物園への熱い思い

現在、「池田動物園をおうえんする会」は会長の清水努さん、事務局長の杉原望さん、獣医師の内山茂さんらを中心に、会員は学生、社会人、企業や団体を含め約100人。会の発足は、動物好きな杉原さんが10年ほど前、ふと思い立って池田動物園へ行ったのがきっかけとなった。

地元FM局の番組収録中の会長・清水努さん(左)と事務局長・杉原さん(提供:池田動物園をおうえんする会)

子どもの頃以来、久しぶりに訪れたところ、古くなった獣舎が並ぶ園内には人影もまばらで「動物たちはどこか寂しそう」。不憫に思った杉原さんの心に「自分の力が少しでも役に立てば」という思いが芽生える。さっそく知り合いの県議会議員に相談し、動物園の担当者にかけ合い、自らプランした企画書を見せながら「動物園を盛り上げたい」と熱く語った。

しかし、そこで話し合ううちに気づいたのは「自分の力が、という以前に、動物園そのものの仕組みがわかっていなかったこと」

知れば知るほど、動物園運営は厳しいという現実

そもそも動物園は、子どもたちの教育の場であり、研究者には種の保存や動物研究の場。人々にとっては観光地であり、親から子へ世代を超えて思い出をつなぐ場でもある。また、動物福祉の立場から、動物園で暮らす動物のためにはできる限り自然に近い状態で、少しでも過ごしやすい環境を整えることや、広い獣舎につがいで飼育・繁殖することが必要だ。それを守り形にし、維持していくには膨大な費用がかかる。動物園に公営施設が多いのはそんな理由もある。

また、以前から各地の動物園を訪ねては運営の方法や現状について知識を深めていた杉原さん。
「単にお客さんを楽しませ、来園者の数を増やせばいいというわけではない。知れば知るほど問題が山積みであることがわかりました」

相談にのってくれた県議会議員も「一人でできることではないから、何人か集めて会のような形態でやろう」と提案。動物園にゆかりのある人を紹介してもらったり、友人が協力を申し出てくれたりと、次第に協力者も現れ始め、15人ほど集まった時点で会を立ち上げることに。2013年6月のことだ。

昭和の趣が残る池田動物園。獣舎の動物との距離が近いのも魅力

ボランティアの力で、動物園のためにできることを

会の名前は「池田動物園をおうえんする会」。子どもから大人まで楽しめる動物園づくりを目指すため、子どもにもわかりやすいようにと「応援」の文字はひらがな表記にした。

組織の役員を決め、さっそく会の運営をスタート。「動物たちのよりよい環境と施設を維持するためにできることを考え、実行していく」という方針のもと、2か月に一度行う定例会でテーマを話し合い、その実現に向けて活動していく。会員募集、園内清掃や設備の整備、街頭や各所での募金活動、広報、公営化に向けた署名活動など、テーマは多岐にわたる。協賛企業に資材を提供してもらって園内に設置するベンチの製作、エアコンの寄贈、レッサーパンダの獣舎の改装、地元FM局の厚意で1年間担当したラジオ番組でのPRなど、これまでさまざまな取り組みを行ってきた。大学生の力を借りて描いた動物やインスタスポット用のイラストも好評だ。

2か月に一度定例会を開き、その時々のテーマを話し合う(提供:池田動物園をおうえんする会)

動物たちと一緒にジャンプ! 大学生が描いたインスタ用のイラスト

協賛企業から提供を受けた木材を使って園内のベンチを製作(提供:池田動物園をおうえんする会)

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