被災が気づかせてくれた”はたらく喜び” 町で唯一の和菓子店が「地域の人への恩返しのため」2年半ぶりに再開

被災が気づかせてくれた”はたらく喜び” 町で唯一の和菓子店が「地域の人への恩返しのため」2年半ぶりに再開
「仕事をしているときが一番充実しています」と店主の橋本憲吾さん

西日本豪雨での被災から2年5か月を経て、12月5日に岡山・真備で営業を再開した「菓匠庵 は志本」。地域の人々にとって待ちに待ったオープンとなる和菓子店の主人・橋本憲吾さんに、被災当時の思い、再開までの道のりなどを聞きました。

長年、地元で親しまれた和菓子店

 「菓匠庵 は志本」は、和菓子職人の兄と橋本さんが、1981年にテナントビルで開業した店。大阪でサラリーマンをしていた橋本さんは、兄夫婦を手伝いながら和菓子作りを覚え、1986年には現在の場所に移転しました。慶弔の行事や地域のイベント、みやげ物などでの利用も多く、真備町内で唯一の和菓子店として多くの人に親しまれていましたが、8年前には兄が、その後、義理の姉も他界。橋本さんはたった一人で切り盛りを続けてきました。

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豪雨災害で何もかも流されて

 ところが、2018年7月の西日本豪雨災害で被災。2階まで届いた水は、非情にもボイラーやオーブン、餡練り機、わらび餅を充填する機械、包装資材など製造に関わる大切な機器や道具をすべて奪いました。

「試行錯誤しながら書き留め、いつかは作りたいと思っていた和菓子の手書きメモやスクラップなど、大切にしていたレシピノートも流されました」。

 店だけでなく自宅まで被災で失った橋本さんは、しばらく放心状態に。

「悲しいとかつらいとかの感情を超えて、どうしたらいいのやらという思いでした。自分の家も子育ての思い出の品も、何もかも失いましたから」。

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周囲の声を励みに立ち上がる

 親戚や友人たちの力を借りて店と自宅の片付けを進めるものの、一人で店を続けることに限界を感じていた時期だっただけに、”廃業”の文字が浮かぶこともあったそう。ところが被災から3か月ほど経った頃、なんども周囲の人から「お店、どうするの?」「また店を開いてよ」という声をかけられ、心が動き始めます。

  生活のためには仕事も必要。幸い建物の躯体は問題なかったこともあり、「地元の人たちの声に背中を押されるように」再開を決意したそうです。

再開に向けて準備を始める

 被災後、1年半ほどは知り合いの仕事を手伝っていたこともあり、店舗の改装が本格的にスタートしたのは2020年4月から。大工仕事が得意な知人に依頼し、内装工事を進めることになりました。資金は国の「グループ補助金」を活用しようとしたものの申請手続きが複雑だったため断念。なんとか貯金をやりくりし、最低限の内装工事と機材購入の資金をまかないました。

 店内のレイアウトは橋本さんが考え、それらを形にするのは親戚や友人たち約20人。内装整備と同時進行で、11月半ば頃から和菓子づくりも始めました。

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そして迎えた再開初日

 開店当日、ショーケースに並んだのは定番のどら焼き、地元真備にインスピレーションを得た焼き菓子や饅頭、季節のモチーフを表現した上生菓子など。大阪で修業を積んだ兄とともに作り続けてきた、創業当時から変わることのない和菓子の数々です。オープン日は思った以上の来店者に、「どら焼きが売り切れてしまい、初日は深夜までかかって翌日の追加分を焼きました」と橋本さん。

 以前のようにカステラや羊羹、いちご大福などの季節商品にも取り組みたい気持ちはあるものの、製造から販売までたった一人で行っている今は、なかなかそこまで手が回らない状態。店頭の品数をそろえるため、朝から晩まで働き、クタクタになって帰る毎日が続いているそうです。

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被災が気づかせてくれたこと 

 それでも橋本さんは「今は仕事ができるということが何よりうれしい」と言います。

「今までは自由な時間がいくらでもあったけれど、クタクタになるなんてことはなかった。今日も1日がんばったという達成感は、この2年半の間、味わえなかったことです」。

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 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で恒例の行事が中止になり、和菓子の注文にも影響はありましたが、「仕事がなくて働けなかった時期のことを思えば、一つ二つ注文がなくなるのは、なんてことはない」。

 「今後の希望としては、地元の人に喜んでもらえるよう、できるだけ長く商売を続けたい。そうすれば、少しでも地域に恩返しできるかなと思います」。

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 そう話しながらリズミカルな調子で饅頭を作る橋本さんの横顔は、どことなくうれしさがにじんでいるようでした。被災を乗り越え、ゆっくりと、でも確実に前に進み始めた橋本さん、そして「菓匠庵 は志本」のこれからが楽しみです。

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