人が後悔として抱え続けるものは、決して大きな出来事とは限りません。
むしろ“日常の中で後回しにしてしまった時間”に、心がとどまることがあります。
今回お話を伺ったのは、30代女性・美穂さん(仮名)。
仕事に追われる日々のなかで、気づかぬうちに置いてきてしまった“後悔”について語ってくれました。
「また今度」で先延ばしにしてしまった祖母との時間
美穂さんが後悔しているのは、25歳の頃。 仕事を理由に、ずっと一緒に暮らしてきた祖母との時間を後回しにしてしまったことです。
社会人になり、毎日が仕事中心に。
「帰ろうと思えば帰れるけど、また今度でもいいか」と思いながら、気づけば何ヶ月も実家に戻っていませんでした。
久しぶりに帰省した年末、祖母は以前よりもずっと痩せ、歩くのもゆっくりになっていました。
その変化に気づけなかった自分を、美穂さんは強く責めたといいます。
ほどなくして祖母は体調を崩し入院。
何度かお見舞いには行ったものの、仕事を理由に長く話すこともできないまま、祖母は旅立ってしまいました。
「最後に“ありがとう”と伝えたかったのに、直接言えませんでした。今でも胸が痛みます」
仕事を優先し続けた裏にあった“焦り”と“不安”
当時、美穂さんの心を占めていたのは「遅れたくない」という気持ちでした。 忙しさに追われるというより、むしろ自分自身が焦りを抱えていたと振り返ります。
「仕事で認められたい、ちゃんとしなきゃって思いが強くて。
気づいたら心に余裕がなくなっていました」
余裕のない日々のなかで、“家族はいつでも会える存在”だと思い込んでいた。
それが、後悔の根っこにあったと言います。
“人との時間は戻らない”という気づき
祖母との別れは、美穂さんの価値観を大きく変えました。
仕事は代わりがいるかもしれない。
でも、家族との時間には代わりがいない。
「大切な人との時間は“後でまとめて”取れるものじゃない」と深く理解したと語ります。
それ以来、仕事の忙しさに流されそうになっても、
家族や友人と過ごす時間を意識的に優先するようになりました。
また、“気持ちはその場で伝える”ことも大切にしているといいます。
「『いつか言おう』は、永遠に来ないこともある。そう痛感しました」
当たり前だと思っていた時間は、永遠ではなかった
美穂さんが振り返って強く思うのは、 “当たり前にあると思っていた時間が、最も突然終わる”ということ。
「祖母はきっと、ずっと私を待っていてくれたんだと思います。
その気持ちに気づけなかったことが、何より悔しいです」
後悔は消えないけれど、その後悔が生き方を変えてくれた。
そう語る表情は、どこか穏やかでした。
忙しさに流されてしまう誰かへ伝えたいこと
美穂さんは、同じように“忙しさ”の中で大切な人との時間を後回しにしている人に伝えたいといいます。
「時間は無限じゃありません。言葉も、想いも、伝えられる時に伝えたほうがいいです」
少しだけ手を止めて、心の声に耳を澄ませる。
それだけで、守れる時間があると気づいたからです。
もし当時の自分に声をかけられるなら
最後に、美穂さんは静かにこう言いました。
「大切な人は、いつでもそこにいるわけじゃないよ。少し歩みを緩めて、会いに行ってあげて」
感謝も、想いも、“今” 伝えなければ届かないことがある。
その言葉には、過去の自分への優しい願いが込められていました。
