HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)・HSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)とは、嗅覚や聴覚が敏感で刺激を受けやすく、心が疲れやすい気質を持つ方を言います。

今回取材したモリヒトさんも、我が子の育児で悩んでいるときに自身がHSPだと気づきました。自分が経験したことを多くの方に知ってほしいという思いで文章やショートアニメを通してHSPについて発信をしています。

繊細な娘について調べていると、HSPという言葉を知った

―HSPだと分かった時期はいつごろでしょうか?また、どういったきっかけで知ることができたのでしょうか?

2018年くらいの娘が3歳の頃です。娘は赤ちゃんの頃からとても繊細なところがあり、育児に手がかかっていました。
妻がネットの育児に関する書き込みを読んでいたところ「HSC」という子どもについて知り、専門書を読んでみました。そこには、確かに娘に当てはまる内容があったのですが、それ以上に、幼少期のボクに当てはまる内容がいっぱいあってすごく驚いたんです。
さらに詳しく大人のHSPについて調べてみると、紛れもなくボクは「HSP」だということに気づかされました。その瞬間、生きづらさの原因が自分の気質によるもので「心が弱いから」という思い込みが晴れて、心が救われた気分になりました。

ー娘さんはどういった振る舞いをしていたのでしょうか?

娘は生まれた直後から、尋常じゃないほど大きな声で激しく泣いたり、母乳を本気で飲もうとせずに看護師さんを困らせたりするなど、他の赤ちゃんとは違う振る舞いをしていました。なかなか寝てくれず、寝てもすぐに起きて泣き、ウンチやおしっこのたびに泣き、大きな音に反応しては泣くなど、すごく過敏で、寝ている以外はずっと泣いているような状態でした。

「育児ってこんなに大変なものなのかな…」と夫婦で話していましたが、何かが違うように感じていました。
幼稚園に入る頃には人見知りや偏食がひどく、場面緘黙もあり、転んで出血して大騒ぎし一日中何も手をつけずに泣き続けるようなこともありました。

ーモリヒトさん自身、しんどいな、辛いなとどのようなときに感じることが多いのでしょうか?

いくつか例をあげると、こんな感じです。
・嗅覚が過敏なところがあり、芳香剤のにおいで頭痛がしたり、わずかなタバコのにおいでも不快感を覚えたりします。
・1人でいる時に、以前の会話の中で自分が発言した内容を思い出し「ひとり反省会」を始めてしまいます。もう過ぎたことで考えても仕方がないとわかっていながら、もっと良い発言ができたのではないかと考え続けてしまいます。
・人の怒鳴り声や大きな声に敏感に反応してしまい、そちらの様子が気になって他のことが手につかなくなってしまいます。
・何十年も前に起きた不愉快な出来事を思い出しては、相手に対して怒りの感情がリアルに湧いてきてしまいます。また、犯罪や不正のニュースを見ると怒りがこみ上げてきて、その感情がなかなか消えません。脳内では、事件の当事者に対してボクが制裁を加える想像をしていたこともあります。

ー現在、どのような対策をしていますか?

心がけていることの例をあげると、こんな感じです。
・わずかな情報でも心が揺さぶられるため、悪いニュースの配信は見ないようにしています。
・気乗りしないことや嫌な予感がすることには、なるべく最初から関わらないようにしています。
・不快に感じる場所に居合わせた時は、速やかに移動するようにしています。以前は、不快に感じても動くことを躊躇して辛抱することが多かったので、うまく対処できた時は自分を褒めるようにしています。
・考え過ぎたり、心配しすぎたりした時でも「HSPだから仕方がない」と捉えて、自分を許します。そして、これ以上は同じことの繰り返しだからと自分に言いきかせ、違うことに気を向かわすようにしています。
・文化が違う外国人のように「自分はHSPで、もともとみんなとは少し異なるところがあるから、この社会でうまく馴染めなくても仕方がない」と割り切るようにしています。

同じHSPで生きづらさを感じている人たちに

モリヒトさんが運営する「繊細カプラさん」の動画の一部(@hsp-capra@さんより提供)

モリヒトさんはYouTubeで“繊細カプラさん”というキャラクターを使い、エッセイ風アニメを投稿して共感を集めながら繋がりを広げています。
「HSPは人間だけでなく、いくつかの動物の世界でも存在することが実際に確認されています」
繊細カプラさんは、人間の世界のすぐ近くに「ヤギの精霊」の世界があって、そこでも人間と同じようにHSPで生きづらさを抱えながら暮らす者がおり、そのイキモノの日常をこっそり覗き見てみよう、という感じで表現しているようです。

ーYouTubeで投稿しているイラストはモリヒトさんが描いているのでしょうか?

はい、そうです。正直に言うと、ボクは手書きでイラストを描くことがほぼ出来ません。
もともとデザイン関連の仕事をしていて、パソコンのマウスでイラストを作る方法を、必要に迫られて独学で身につけていました。その応用で、現在もなんとかやりくりしている感じです。

―お子さんはモリヒトさんの活動に対して、どのような反応をしていますか?

娘にはHSCについてまだ詳しく話をしていないため、自分がHSCだという自覚がありません。そのため、ボクの活動についてもほぼ理解できていません。
繊細カプラさんの制作の様子を目にすることはありますが、多分「お父さんはパソコンでアニメを作れる人」くらいにしか思ってないようです。ただ、私が制作したアニメには興味を持つこともあり、自分でも物語を作りたいという気持ちがあるらしく、私が作業している横で手書きの絵本や漫画を描いたりしています。
娘がもう少し成長したら「とても繊細な人が世の中にはいて、じつはお父さんもそうなんだよ」という感じでHSCの話をしようと思っています。

モリヒトさんが運営する「繊細カプラさん」の動画の一部(@hsp-capra@さんより提供)

ーSNSでの発信を続ける中で、フォロワーからどのような声がありましたか?

フォロワーさんからは「すごくわかります!」「私も同じです!」など、共感の声をたくさんいただきます。中には「気持ちを代弁してくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えてくださる方もいらっしゃいます。
フォロワーのHSPさんは、その性質上、慎重に言葉を選んで何度も考え直したり、投稿をためらったりしてる人が多いので、そんなハードルを乗り越えて思い切ってSNSで気持ちを伝えてくださること自体、ボクにはとても嬉しく思えます。
また、YouTubeでは、繊細カプラさんのキャラクターについて「かわいい」「癒されてます」「大好きです」との声をよくいただき、投稿を楽しみに待っていてくれることを伝えてくれます。
SNS内では、フォロワーさん同士が励ましあったり、思いやりのある言葉をかけ合ったりすることもあり「HSPさんが集まる空間は優しい世界だな」と感じています(他のSNSでもこんな感想をよく目にします)。

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