2021年3月、東京農工大学(以下、農工大)の学生による「農工大ビールプロジェクト」が始まりました。同プロジェクトの代表を務めるのは、松村圭祐さん(博士後期課程2年)です。

「いろいろな学生を巻き込み、農学と工学を融合させながら農工大の魅力を発信していきたい」

そこで松村さんが着目したのがクラフトビールでした。現在は農学部と工学部から集まった11名のメンバーで活動しています。

「農工大ビールプロジェクト」に参加する学生たち

「どうしたら農工大の良さを発信できるだろうか?」と話し合った末、「ブルーベリー」と「超音波熟成」で農工を融合させたクラフトビールを作ることに決めました。

いろいろな人の力を借りるため思いを伝え続けた

彼らが手がける「農工大クラフト」は、農工大OBである和泉俊介さんの経営する「和泉ブルワリー」で醸造しています。超音波を使うと短時間で酒を熟成できますが、ビールの超音波熟成は前例がないと松村さんは言います。

「農工大クラフト」は、この発酵タンクで作られている

「超音波熟成に関しては、ビールのタンク内にうまく収まる大型の装置を作らないといけなかったので、大変でした。技術開発はしっかりやりましたね」

すべてがゼロからのスタート。壁にぶつかるたびに、いろいろな人の力を借りてプロジェクトを進めていきました。

企画会議の様子

「ブルーベリーの調達も意外と大変で(笑) 醸造タンク1つ分の600リットルのクラフトビールを作るためには、38キログラムのブルーベリーが必要でした。元々は大学内のブルーベリーで作ろうと考えていましたが、想定より必要な量が多かったんです。奔走した結果、農工大OBの方が運営している島村ブルーベリー園に協力してもらい、なんとかブルーベリーを確保できました」 

「農工クラフト」用のブルーベリーを収穫

大学の先生や事務の人、そして農園の人をはじめ、プロジェクトに興味を持ってくれた人には、積極的に思いを伝え続けたといいます。少しずつ協力してくれる人も増え、アドバイスやフィードバックをもらいながらここまでやってきました。

自分の中にある創造性を発揮してほしい

「農工大ビールプロジェクト」代表の松村圭祐さん

松村さんは、このプロジェクトの背景にある思いについて、こう話します。

「学生のみんなに、自分の持っているクリエイティビティはかっこいいんだということを自覚してほしくて。例えば、おじいちゃんから教わったことやお父さんと一緒に作った工作、お母さんから聞かされた話、家族で見に行った海とか。そういう経験や情景、匂いがそれぞれの人の歴史にはすべて含まれているじゃないですか。それが、本来持ち合わせている創造性だと思うんです。その創造性を発揮して、形になったものを見たい。でもそういうことって、大人になるにつれてなかなか出せなくなってくる。 挑戦することは楽しいしかっこいいし、きっと自分の役にも立つと思うんです」

ひとつひとつの作業は学生がすべて行なっている

「農工大クラフト」は、11月12日〜14日に開かれる学園祭で600リットルを限定販売し、翌週からは、地域のスーパーや居酒屋などでも販売を予定しています。

「今後、農工大クラフトを全国的に売っていきたいですし、大学対抗のビールフェスもやりたいと思っています。美術系の大学がおしゃれな瓶ビールを作ってもいいし、テクノロジー系の大学がAIを使ってビールを開発してもいいと思うんです。各大学の魅力をクラフトビールというプラットフォームに乗せて、展覧会みたいなイベントを作っていきたいですね」

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