2023年4月に徳島県神山町で開校する私立高等専門学校「神山まるごと高専」の1期生2人が3月22日、入学前の思いをオンライン・イベントで披露した。主催した松井ひな子さんと鈴木結衣さんは、好きを重視した「偏差値以外の学校の選び方」で同校入学を決めた。正解なき時代を生きる15歳の思いを紹介する。

「起業家になりたい」鈴木さん

午後7時、2人の「まるごとぶっちゃけトーク会」が始まった。「時間になったので始めたいと思います。イェーイ!」。全国から学校教育に関心の高い58人が参加。学生の姿も目立った。

松井さんは北海道旭川市、鈴木さんはさいたま市に、それぞれ住んでいる。入学後は5年間を同じ寮で暮らすことになる同期だ。2人を映すオンライン画面の背景は、神山町の山あいの画像でそろえた。

鈴木さんは、中学時代に頑張ったこととして委員会活動をあげた(提供)

まずは、同校との出会いから。「母に教えてもらって、知りました。『やりたいことが、この学校ならできるんじゃない』と言われて、即決でした」と鈴木さん。幼稚園の頃に「社長になりたい」と思ったことをきっかけに、起業家を目指しているという。

一方、松井さんは、地元のコミュニティ・スペースの大人から聞いた。「『ひな子にぴったりの学校があるよ』と言われたけれど、最初は魅力を感じませんでした」。5か月後に別のイベントでも学校名が出たので調べたら、ホームページが進化して充実していた。

「15分ほど、恋するようにホームページを見ました」という松井さん。「与えられるのではなく、自分たちで創り出す」という言葉にワクワク感が高まって、魅了された。そのまま、母親に「この学校に行きたい」と告げた。

受験で「好き」と告白した松井さん

神山まるごと高専は、同町に拠点を持つ起業家らが中心になって設立した新しいタイプの学校。起業家育成、授業料無料などの特色で注目を集める。2人は推薦入試で合格した。

徳島県神山町に開校する「神山まるごと高専」の学生寮が入る建物。旧神山中学校を改築した

松井さんにとって受験は「大好きになった学校に、思いを告白する場」だった。面接でも「好き」という感情について語ったという。

「私は小さい頃から、『好き』を大切にしてきました。『好き』の原動力がすごいんです。神山まるごと高専は、恋するように好きで、やりたいことに熱中できる環境があるから目指しました」

面接官は、好意的に笑ってくれた。

学校外でも「自分の考えを発信することを頑張った」という松井さん(提供)

松井さんは中学1年生の時に「なぜ学校に行くのか」を真剣に考えた経験があり、これまでに「学校のアタリマエをぶっ壊せ!」というイベントを3回開催している。「学校をもっとワクワクできる場所にしたい」という思いが湧いたためだ。

自身の学校選択を一例に「偏差値以外の方法で、学校を選ぶこともできる」と多くの人に伝えたいと考え、今回のトーク会を鈴木さんと主催した。

ノート1冊分の自己分析

トーク会の後半では、2人が参加者の質問に答えた。「正解のない問いに対して、独自性のある答えを出すために気をつけることは」という、社会人も頭を悩ませる質問があった。

鈴木さんは「私は独自性がなくて、入試でも悩んだ」と話す。思考が現実的だと評価されてしまい、自分を出す方法をとことん自己分析した。ノート1冊を1か月で埋めるペースで「好き」や「苦手」を書き出したら、自分らしい傾向がわかったという。次第に、学校の課題などで「独自性が出てきた」と感じている。

松井さんも「小さい頃に好きだったことに注目しています。ワクワクという感情を大切にすると、自分らしさに繋がると思います。小さい頃は欲に忠実で、欲って独自性に近いと思うから、欲むき出しの子どもの頃を思い出してみることが大事」と語った。

トーク会のスライド。参加者の質問では「田舎に行くこと」に関する項目もあった

神山町という人口約5000人の過疎地に引っ越すことについては、2人とも抵抗感はなく、学びたいことを全力で学べる環境だと肯定的に捉えていた。同町は「地方創生のモデル」と称されることもあり、「神山町が田舎だと思っていない」という声もあった。

最後に、高専5年間の目標を聞いた。松井さんは「ワクワク関係人口を500人にすることです。ワクワクする人を1年に100人のペースで増やしたい」と語った。

鈴木さんは「学生起業して、失敗しながらやっていきたい。5年後の進路は、今決めても変わると思うので、その時にやりたいことをやると思います」と話した。

「不安も楽しみに変わる」

入学式が楽しみな2人だが、松井さんはひとつだけ心配がある。それは、アイスクリームのこと。町にはアイスが買える店が2か所しかないため、持ち帰る間に溶けてしまうと考えている。

学校に自販機を置いてもらうとか、食べながら帰るとか、トークの間にも様々なアイデアが浮かんだ。

「アイスどうしようと不安です。でも、仲間の力で不安も楽しみに変わっていくんです。アイスの問題は、みんなと解決していこうと思います」

神山町で暮らす5年間を楽しみにしている松井さん(右)と鈴木さん(提供)

とことん明るく、好きを大事にしている松井さん。冷静に分析しながら、将来を見据えている鈴木さん。3月中旬に学生寮の見学をした際は、真新しい部屋を見て「思ったより広い」とワクワク感が高まった。

2人は1期生42人とともに4月、神山町の住民になる。

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