フードロスをしないよう、気をつけていることはありますか?

今回紹介するのは夜のパン屋さん(X:@yorupan2020)。夜に営業をしているパン屋さんです。狙いは何なのでしょうか。

夜のパン屋さんとは

夜のパン屋さんでは、協力してもらっているパン屋さんから売れ残りそうなパンを預かり、その日の夜に販売しています。

店舗は神楽坂、田町、大手町にあり、営業時間や営業日も店舗によって異なります。遠方から仕入れるパンは冷凍して輸送しており、遠いところでは北海道や静岡、京都など日本各地から届けられます。

パンの販売価格はそれぞれのパン屋さんが決めており、売れた数の半額をパン屋さんへお支払い。残りの半額は夜のパン屋さんのスタッフの賃金や、出店場所への支払いなどの諸経費となるとのこと。

目的は安く売ることではないため、割引はしていません。
パンを焼いているお店の人、夜のパン屋さんで働く人へそれぞれに適正な対価を支払い、循環し続けられる仕組みの確立を目指しています。

夜のパン屋さん誕生のきっかけ

夜のパン屋さんは、ホームレスの方々の社会的自立を応援する取り組みをしている有限会社ビッグイシューが始めました。
発行している「ビッグイシュー日本版」の価格は450円。このうち、230円が路上販売者の収入になるという事業モデルで、20年にわたり活動をしています。

この20年の間で、日本の『貧困状態』が多様化していくなか、路上の雑誌販売以外にも関われる仕事をつくる必要があると感じていたそう。

あるとき、ビッグイシューの支援者から「課題解決のために、持続可能な仕組みづくりに充ててほしい」と寄付の申し出がありました。
そしてビッグイシュー基金共同代表である料理研究家、枝元なほみさんの発案により誕生したのが『夜のパン屋さん』です。
生活困窮者にすぐにできる仕事を確保し、食品の廃棄量を減らしていく試みです。

陳列されたパン(@yorupan2020さんより提供)

やってみなくちゃわからない

夜のパン屋さんに協力してくれているパン屋さんは、どの店舗も取り組みに賛同してくれています。

中央区、東日本橋の「BEAVER BREAD」さんは、以前からパンのロスに問題を感じていたそうです。「何かしらトラブルは起きると思うけれど、やってみなくちゃわからない。まずはやってみて考えよう」と、真っ先に協力してくれたそう。

文京区江戸川橋の「焼きたてベーカリーナカノヤ」さんも「自分が作ったパンがきちんと売れて、それを食べたお客さんにおいしいと言ってもらうのが一番うれしい」と、夜のパン屋さんに賛同しています。

パンを買う人々(@yorupan2020さんより提供)

ある職人さんからは、夜のパン屋さんに関わるようになって、安心してパンを焼けるようになったと言葉をもらったそう。
どれだけ計算をして生産量をコントロールしていても、急な天候や人通りの変化などで、パンが余ってしまうこともあります。
「売り切れなかったときでも、次がある」という安心感につながっているようです。

どこで始める?

ビッグイシューが雑誌以外の商品を販売するのは、夜のパン屋さんが初めての試みだそう。

海外では、販売員を雇用するカフェやレストランなどを始める事例が多いそうですが、同様のやり方では初期費用がかかりすぎてしまいます。

まずは、北海道十勝にあるパン屋さん「満寿屋(ますや)商店」さんをモデルに、パンの売れ残りを再販する仕組みを考えました。東京で夜のパン屋さんを始めるにあたって、参加してくれるパン屋さん、販売場所を探すのに苦労したそうです。

代表の枝元さんがパン屋さんに一軒一軒飛び込み営業をし、プロジェクトの内容や意義を説明して周りました。ようやく6店舗のパン屋さんの協力を得て、2020年10月にプレオープン。努力のたまものです。

販売場所は、協力店第1号でもある「BEAVER BREAD」代表の割田健一さんが神楽坂の書店「かもめブックス」さんを紹介してくれました。

今では、年間で約5万8千個の『廃棄されるかもしれなかったパン』を、皆様の食卓にお届けしています。

夜のパン屋さんで残ったパンの行先は?

どうしても、夜のパン屋さんでも日によってはパンの売れ残りが出てしまうことがあるそうです。その場合、販売員やビッグイシューに相談に来る人たちに渡したり、つながりのある子ども食堂さんにお届けするなどしているとのこと。

夜のパン屋さんは、パンを最後まで食べ物としての命をまっとうさせることを約束しています。

夜のパン屋さんのこれから

夜のパン屋さんはフードロス対策と雇用の創出という社会課題の解決を目指して始まった事業です。
今後も安定して継続していくために、店として経済的に回り続けることが大切だといいます。

「普通のお店と同様に、お客様には楽しく買い物をしていただき、ご協力いただいているパン屋さんにも喜んでもらえるような営業を目指したいと思います」と話してくれました。

パンの販売員(@yorupan2020さんより提供)

お客さんからは「普段なかなか行けないお店のパンが買える」「いろいろな種類のパンを選べる」と、パンのセレクトショップのような楽しみ方をしてもらってます。

お気に入りのお店の美味しいパンを買うという日常の行動が、パンのロスをなくし、雇用を作り出す。社会課題へ取り組む気軽な窓口として街に欠かせない存在になってきてるようです。

夜のパン屋さんは、今後もさらに多くのパン屋さんとつながり、増店も視野にいれているとのこと。

また、女性や若い世代で困窮している方とのつながりが少ないため、夜のパン屋さんの活動を通じて繋がっていければと考えているようです。おいしいパンが人々の元へ渡り、働いている人も嬉しい取り組み。さらに広がっていく活動にこれからも注目していきたいですね。

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