最高時速300km以上と、とても高速でありながら、最高クラスの安全性を備えているとも言われている日本の新幹線。その安全性を支えているのが、「見ると幸せになれる」とも言われているドクターイエローによるデータ計測と、それを基に不具合箇所のメンテナンスを行う人たちです。ではドクターイエローはどんなデータをどのように計測しているのでしょうか。また、そのデータはどのように活用されているのでしょうか。今回は、ドクターイエローの役割や知られざる秘密、そしてその活躍の裏側で新幹線の安全走行を守るJR西日本のチームを取材しました。

(提供:西日本旅客鉄道株式会社)

超高速で走りながら電気や線路をチェック

ドクターイエローの正式名称は「新幹線電気軌道総合試験車」。主な検査項目は4つ。1.レールはまっすぐか・大きなゆがみが発生していないか、2.電気(電流・電圧)が正常に流れているか、3.速度信号が正常か、4.列車無線が正常につながるか。通常の新幹線と同等の時速270kmで走りながら、レールのゆがみをミリ単位まで計測するというのだから驚きです。

車内に設置された信号通信測定台。 (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

実際の線路を走行して得た計測データを元に、専門部署の社員が電気設備の検査やレール整備を行っています。最初に話を聞いたのは、岡山新幹線保線区の宮﨑大我さんと福地健吾さんです。

福地健吾さん(左)と宮﨑大我さん(右) (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

計測したデータを安定走行につなげる

「ドクターイエロー走行後の測定データを元に線路のゆがみを整備し、安定した走行や乗り心地の確保につなげています。また、データを見るだけでなく実際に現地へ足を運んで線路の異変に気付くことも重要だと考えています。そのためにも経験を積んで正しい知識を身につけ、自分の判断が新幹線の安定輸送に関わることを常に意識しています」

「ドクターイエローは、線路の凹凸については上下左右のズレだけでなく、左右のレールの高低差や線路のねじれ状態までミリ単位で測定できるんですよ」 (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

「毎日あたりまえに走っている列車ですが、その“あたりまえ”を維持するために日々検査をしています」 (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

続いて話を聞いたのは、岡山新幹線電気区の山室陽介さんと貞利美帆さん。山室さんは、鉄道車両に給電する接触電線(トロリ線)の摩耗管理も行っています。

山室陽介さん (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

「トロリ線は車両が通過するたびに摩耗します。人間の目ですべてのトロリ線を測定するのは不可能なので、ドクターイエローの測定データを活用して効果的に現地確認や調整を行っています」

走行中に架線状態を確認する「観測ドーム」 (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

「新幹線を運行するうえで電気は欠かせないものです。夏場に新幹線で停電が発生すると空調設備も利用できなくなります。そういった事態を防ぐために、日々の細かなチェックが必要なんです」

(提供:西日本旅客鉄道株式会社)

ドクターイエローの知られざる秘密

2021年入社の貞利美帆さん (提供:西日本旅客鉄道株式会社)

貞利さんが行っているのは、新幹線の安全運行やお客様の案内に必要な電気設備の保守。一般の人が目にするもので言えば、駅のホームにある電光掲示板や自動放送装置、非常停止ボタンなどです。貞利さんに、あまり知られていないドクターイエローの秘密について聞きました。

駅のホームにある電光掲示板(提供:西日本旅客鉄道株式会社)

「実はドクターイエローはあまり乗り心地がよくないんです。これは、お客様が利用する新幹線の揺れを極力少なくするために、どれだけ揺れるかを測定しているから。ドクターイエローには揺れを軽減する装置が付いていないんです。乗っている人でも酔うことがあるほどなんですよ」

また、山室さんもドクターイエローの意外な弱点について教えてくれました。
「実は雨に弱いんです。トロリ線はレーザーで測定しているため、雨が降るとレーザーが雨に反射して正確な測定ができないんです」

(提供:西日本旅客鉄道株式会社)

チームで支える新幹線の安全

ドクターイエローの走行スケジュールは非公開ですが、頻度でいうと10日に1回程度で検測走行しているそう。また、検測走行のパターンには「のぞみタイプ」と「こだまタイプ」があり、「こだまタイプ」で走行する際は各駅に停車しているそうです。

ドクターイエローが走行し、得られたデータを元に多くの人たちが日々メンテナンス作業を行ってこそ、新幹線の安全が保たれているのです。今後ドクターイエローを目にする機会があれば、その裏で働く人たちにも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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