「田舎町での、しかも初めての開催だったので『応募は来るだろうか』『プレゼンテーションできるだろうか』と心配でしたが、見事にその期待を裏切られました。心配していた自分こそ恥ずかしく、子どもたちの可能性を認識できるいい機会になりました」

対話型教育グループいろりば(以下、いろりば)が主催する「第1回小中学生プレゼンコンテスト」を終え、いろりば代表理事の藤居貴之さんは語ります。

春を感じるやわらかな風が吹く2024年2月18日(日)、第1回小中学生プレゼンコンテストが滋賀県長浜市のびわ文化学習センター・リュートプラザにて開催されました。

第1回小中学生プレゼンコンテスト看板(画像出典:Facebook)

小中学生の発表者は長浜市長や教育長の前で堂々とプレゼンし、その姿に観客たちは圧倒されます。「こんな学校があったらいいな」の共通テーマで、パワーポイントやCANVAなどを使って子どもたちが作成した資料は、ステージ上の大きなスクリーンに映し出されました。発表する子どもたちは「早く私の提案を聞いて」と言わんばかりにとても誇らしげです。

第1回となる今回は1月の一次選考を通過した小学生4組、中学生6組の個人やグループによるプレゼンでした。子どもたちは現状の課題を提示し、個性的な解決方法の提案によって観客の興味を引きつけます。

今回はいろりばの代表理事である藤居さんに、グループの立ち上げやプレゼンコンテスト開催の目的について詳しく伺いました。

「教育に関心を持つ人」が気軽に話せる場所

小学生部門でのグループ発表の様子

「皆さんは小学校・中学校の卒業生です。誰もが教育を受けてきているので、教育に関心が無いわけではありません。誰もが当事者として、みんなで取り組むべきだと考えています」

元々、教育には関心がなかったという藤居さんは、娘さんの教育と関わることで初めて関心を持つようになったと言います。

「長女が障がいを持って生まれてきたのをきっかけにインクルーシブ教育に携わり、意識が大きく変わりました。そのときに感じたのは、保護者が学校の先生に対して話しづらい印象を持たれていることです。しかし、実際はそうではありません。だから、もっと気軽に教育について話し合える場を設けたいと考えました」

インクルーシブ教育とは、障がいのある者と障がいのない者がともに学ぶ仕組みです。藤居さんは教育的ニーズを的確に把握し、対応できる場所の構築に尽力されました。そのときの経験が今に活かされているといいます。

いろりばの活動風景(画像出典:対話型教育グループ Iroriba「Facebook」より提供)

「小学校の先生との何気ない会話の中で『先生ってこんなコトしてるんだ』『先生ってこんなコトを考えてるんだ』などさまざまな気づきがありました」

教育のことは先生だけではなく、保護者や地域全体で取り組むべきだと気がついたそう。

いろりばは、教育について自分の考えを持っている人たちの集まりです。教育関係者だけでなく、看護師、理学療法士、ゲストハウス経営者などさまざまな経歴や職業の人たちが参加しています。

「私自身も教育関係の仕事をしているわけではありません。同じように、直接的に教育に携わっていない人でも、教育に関心を持っている人は多いはずです。ですから、教育に関心を持つ人が、気軽に話せる関係性を作り出せないかと考えました」

藤居さんが声をかけていろりばを結成し、活動を開始したのが2023年3月でした。

いろりばの活動は、月1回の教育について談話する「囲炉裏場」と年1回の「教育フォーラム」、YouTubeにおける「irorib@きょういくチャンネル」の配信などです。そして、それらを経て、今回のプレゼンコンテスト開催に至ったとのこと。

どうしてプレゼンコンテストなのか

中学生部門の発表風景

討論会でもなく、作文発表会でもなく、どうしてプレゼンコンテストなのでしょうか。そこには、藤居さんをはじめとするメンバーの思いがありました。

「学校教育ではICTが取り入れられていますが、現在はタブレット端末を使用することが大きな目的となっています。ですから、子どもたちが自ら考えて何かを作り出すところまでは至っていません。今回のプレゼンコンテストでは、子どもたちや先生に、ICT機器を活用した新たな学びに気づいてほしいと考えて企画しました」

ICTを取り入れた教育は、まだまだ教育現場では試行錯誤の状態です。プレゼンコンテストの中には、タブレット端末をもっと有効活用すべきとの発表もありました。

今回のプレゼンコンテストの観覧者の中には、生徒が出場していない学校の教員の方もいらっしゃったとのこと。今後はさらにICT機器が有効活用されることは間違いありません。

さらに藤居さんは続けます。

「『田舎の学校でも、機会さえあれば都会に引けを取らない環境をつくれるよ』ということを知ってほしかったのが一番です。田舎の学校だからできないという考えがなくなれば、都会へ出ていく人も少なくなるかもしれません。こうした活動が、地域の少子化対策にもいい影響を与えると考えています」

また、大人が考えている教育と子どもたちの考えている教育とは異なりますが、子どもたちは自分の思いを伝える場所がほとんどありません。今回のプレゼンコンテストはそういった子どもたちにとっても、大変いい機会になりました。

子どもたちだけではなく、大人も同様です。日頃の生活では、教育に関する子どもの意見を聞く機会はほとんどありません。プレゼンコンテストは、子どもにとっても大人にとってもメリットがありました。

ただ競い合うコンテストではない

中学生部門に参加した皆さん

実際に発表されたプレゼンのタイトルは「毎日行きたくなる学校」「私たちが決められる学校」「長浜から国際交流へと輪を広げられる学校」など。実現可能か否かは関係ありません。そこには、子どもたちが日頃から考えている課題と、その課題に対するユニークな解決策がありました。

プレゼンの時間は5分程度で、発表後の質疑応答も含めて審査されます。張り詰めた空気の中でのプレゼンに対し、質疑応答は和やかな雰囲気で進められました。緊張と緩和により、会場は盛り上がります。

コンテストでは各部門で賞を設定していましたが、どのプレゼンも甲乙付け難い状況でした。

表彰式で賞状を手渡す藤居さん

「プレゼンテーションをしているとき、他のプレゼンターがウンウンと頷きながら聞いていた姿がとても印象に残っています。ただ競い合うコンテストではなく互いに学び合い認め合うことこそが大切だと思います」

藤居さんは語ります。そこには、勝ち負け、失敗や成功などでは推し量れない価値がありました。

今後の活動方針

いろりばの案内とプレゼンコンテストのパンフレット

現在のいろりばは14名のメンバーがボランティアで活動をしています。活動にかかる施設利用料や看板、幟旗(のぼりばた)、パンフレットなどの費用は、ほとんどがメンバーによる持ち出しとなっているとのこと。

「今のところ、大きな活動をしているわけではないので、費用的な面では問題となっていませんが、今後は地元企業の協賛などを募っていきたいと考えています。今回のプレゼンコンテストでは、長浜市長や教育長、県議会議員の方々も審査員として出席していただいたので、行政からのバックアップにも期待が持てそうです」

藤居さんは眼を輝かせて語ってくれました。

また、月1回の頻度で開催している囲炉裏場では、大人だけでなく子どもも参加して教育についての談話をしているとのこと。

「今後は広報活動に力を入れ、メンバーを増やしていきたいです。教師や保護者の垣根を超えて教育について対話したいと思っています。職業や年齢に関係なく色々な人に参加してもらえるとうれしいですね」

世代を超えたさまざまな職業や立場の人たちの考えを聞き、今後の教育が少しでもよくなるようにとの考えです。一人でも多くの人が教育に興味を持ち、プレゼンコンテストが第2回、第3回と続くことを期待しています。

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