店の入り口に置いてあるリボンをスタッフに渡せば、食事が食べられる。飲食店が子どもに食事を提供するタイプの子ども食堂が全国に広がっており、香川県丸亀市でも人気喫茶店「グッドネイバーズコーヒー丸亀店」が取り組み始めた。オーナーの小林功治さんに話を聞いた。

大人も一緒に利用できる

「おなかがすいたらここにきて、いりぐちにあるリボンを1つとっておみせのひとにわたしてくださいね」。店頭のボードには、大きく「子ども食堂」と書かれ、子どもたちへのメッセージが続いた。店に入ると、食事が食べられるリボンが18個並んでいた。

店の入り口に、フードリボンがボードに貼り付けられている

小林さんが店で子ども食堂を始めたのは、2023年4月。一般社団法人ロングスプーン協会が全国で展開しているフードリボンプロジェクトに加盟した。

お腹を空かせている子どもを支援したい大人が、あらかじめリボンを300円で購入。子どもは、リボンを自由に取って食事できる仕組みだ。店の金銭的な負担はない。大人が一緒に食事する場合は、300円支払うことで同じ内容の食事が提供される。

グッドネイバーズコーヒー丸亀店の場合は、小学生以下の子どもは営業日の午後4時から午後6時まで、いつでも利用できる。提供される食事は、店のメニューではなく、まかないのような内容。その時々で手元にある材料を使うというが、パンの耳を使ったサンドイッチやサラダ、ジュースなどを予定しているという。

「実は、まだ取り組みが知られていないこともあり、利用者は数組にとどまっています」と小林さん。子どもが一人で来たケースはまだなく、いずれも親子連れの利用者だった。「お母さんと一緒に来た女の子は、嬉しそうに食事していました」と話した。

一方、支援する大人の側の反応は、「リボンが集まりすぎて困っているほど」という。小林さんの知人をはじめ、一般の客もリボンの購入に協力してくれた。中には、まとまった数のリボンを一度に購入してくれた人もいた。

「支援が循環する仕組みが良いと思います」と話す小林さん

「店を通して大人から子どもへの支援が循環するところが、フードリボンの良いところだと思います。支援する側に負担が偏ってしまうのは、結局長続きしないのではないかと思うためです」と小林さんは話した。

「スピーディーな対応が必要」

子どもの貧困は、全国的な子ども食堂の広がりなどもあって社会問題として認知されているが、まだまだ知られていない側面もある。小林さんも「貧困といえば、海外の問題だと思っていました」と話す。

しかし、日本の子どもの7人に1人が「安心して食事できない環境にある」というデータを知り、小林さんは驚いたという。「広がっている貧困の速さに対して、小さな支援では間に合わない。組織的にスピーディーに取り組むことが必要ではないか」と考えるようになり、フードリボンプロジェクトに加盟することを決めた。

一般の子ども食堂は、開催日が月に数回などと限られているが、営業日ならいつでも食事ができるところがフードリボンのメリットだと感じたという。2023年9月現在、フードリボンプロジェクトの加盟店は全国に133カ所あり、2万カ所まで広げる目標を掲げる。

「食事できない子どもだけを見つめるのではなく、例えば、孤食の問題もあります。誰とも会話せず、ゲームだけしているような子どももいると思うのですが、そんな時に、店に来て食事できればスタッフと会話したり交流もできます」

「いつでも人の出入りがある喫茶店だからできる支援をしたい」と話す小林さん

小林さんは子ども食堂を開始する前に、説明会に参加したりして、疑問点や不安を解消していった。一番気になっていたのは「必要な子どもに届くのだろうか」という疑問だった。ロングスプーン協会に質問したところ、答えはこうだった。

「仮に、食事が十分にできている子どもがリボンを使って食事しても、そのまま受け止めてあげてください」。小林さんは「日常的にごはんを食べているか確認することは出来ません。でも、支援が循環するこの仕組みなら、やって来た子どもを受け止められる」と納得できたという。

いつでも人がいる喫茶店という環境

グッドネイバーズコーヒー丸亀店はオープンから11年目。ニューヨークの地下倉庫をイメージした店内は落ち着いた雰囲気でまとまっている。いつも店内は、コーヒーやサンドイッチを楽しむ人で賑わう。

「子どもの頃、日曜日に早起きすると、家族が喫茶店のモーニングに連れていってくれました。そんな子ども時代の良き思い出を地域に還元したいという思いがあり、店では喫茶店らしさや朝の時間を大切にしています」

いつも多くの客で賑わっている「グッドネイバーズコーヒー丸亀店」

いつ来ても誰かがいる店の環境は、子ども食堂の利用者にとっても「一歩踏み出しやすいのではないか」と小林さんは思っている。「お腹が空いたら店に来て、リボンをスタッフに渡すだけなので、心理的なハードルも低いと思います。店内で宿題をしてもオッケーです。店で過ごす時間を楽しんでもらえれば」と話した。

「子どもたちをめぐる状況を考えてみると、貧困に限らず、子どもが夢を持てないのは、周りに夢や目標を持っている大人がいないという理由もあるはずです。大人がイキイキと働いている姿を見せて、憧れられる大人になりたいと思いながら働いています」。小林さんは笑顔で話した。

グッドネイバーズコーヒー丸亀店の子ども食堂は、食事を提供するだけでなく、頑張っている大人と出会える場所でもある。小さな出会いから、子どもの貧困が解決する小さな一歩が始まるかもしれない。

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