天の恵みで青々としげる緑の香りが、雨の香りとともに漂う季節。窓辺で雨音に耳を傾けながら、ゆっくりと過ごす日も滋味にあふれた季節だ。6月5日は世界環境デーということで、元JICA海外協力隊員で、現在は中国四国地方環境事務所岡山自然保護官事務所で国立公園利用企画官として働く、古川佳奈子さんに話を聞いた。

国立公園をもっと利用してもらうために

皆さんは、身近なところにも国立公園があることをご存じだろうか。生まれた時から住んでいる家の窓から見える海や子どものころにみんなと遠足で登った山。近くに住んでいるとそこにあることが当たり前すぎて、実は国立公園だと知らなかったなんてこともあるだろう。

正面には海と島、後ろには山々を抱える瀬戸内エリアで暮らしていると、その景色が当たり前のように感じるが、そんな瀬戸内海は、日本初の国立公園のひとつである瀬戸内海国立公園に指定されている。

そして、地元の人には見慣れたその景色の魅力に気づいたのは、鷲羽山から見渡す多島美に感動した外国人だったともいわれている。

地球温暖化や気候変動といったことが話題にあがる昨今、自然を守りつつもその自然を生かし地域を活性化すべく、古川さんは日々奔走している。

グラフィックデザインの職務経験を生かして、利用者向けに国立公園でのルールやマナや地元にある国立公園を紹介するチラシを作成した。

環境省のちらしにも出てくる親しみやすいイラストは協力隊時代から大活躍

古川さんは、まずは地元の人々に改めてすぐ近くにある国立公園の良さを知ってもらいたいという。国立公園に目を向けるきっかけをつくり、地域の人々が自然を保護しつつも地域活性化に生かすお手伝いが出来ればと語る。

その仕事に向き合う姿勢は古川さんのJICA海外協力隊時代にルーツがあった。

開発途上国での旅

古川さんは、もとより開発途上国を旅するのが好きだった。開発途上国に行くと日本人に出会うことは珍しく、話しかけてみるとJICA海外協力隊員だったという経験もあり、JICA海外協力隊のことはなんとなく知っていた。

また、フランス語学留学の経験がある古川さんは、飛行機で乗り合わせたフランス人の大学教授からマダガスカルで学校を建てた話を聞いたことがあった。その教授は、ただお金を出して建てるのではなく建て方を教えたこと、自分たちで建てることで技術が身につき、その後にいかせる、それが大事なんだと熱く語ってくれたそうだ。そういった国際協力の在り方を教わったのも旅の途中のことだ。

旅先の開発途上国では子どもがごみ置き場で遊んでいる様子など貧富の差は度々目にしていたものの、バングラデシュを訪れた際、少年が全裸で座り込んでいたのを見た時に、これまでにない衝撃が走ったという。

全裸ということだけでなく、通りすがる人たちがみな素通りをして、全裸の少年はまるで街の中の、何でもない日常風景の一部のようだったのがとてもショックだったのだと、旅先での様子を語ってくれた。どうすることもできない無力さのなか、協力隊にチャレンジしようと決意を固めたのだという。

協力隊時代の古川さん

カメルーンでの経験

3回目の受験で、ようやくJICA海外協力隊としてカメルーン派遣が決まった。自分に何ができるのか、カメルーンの人たちはどんな課題を抱えているのかなど、現地の人々と生活を共にしながら模索する日々が始まった。

過去に日本政府からの支援で建てられた倉庫が、現地の運営体制が整っていなかった為、使用されず放置されたままになっていたり、前任の隊員が購入した器具が放置されていたりするのを目の当たりにした古川さんは、現地の人々自身が持続できること、現地の人々自身が変えたいと問題視していることに寄り添い、応援したいと考えていた。

協力隊時代の古川さん

帰国まで半年という頃に、日本へのお土産になればと、活動先の女性の自立支援のための職業訓練校で生徒達にアフリカ布でエコバックを作ってほしいとお願いしたことがあった。するとその後なんと、学校のバザーでアフリカ布のエコバックが販売されていたのだ。

最初に作ってもらった時の品質は今一つだったが、一度作ったことで、エコバッグ自体の良さと、販売し、収入を得ることが出来ることに気づいた女性たちが、自ら作って売っていたという。

作ったエコバッグを手に笑顔の生徒

当時、カメルーンは現地を歩けば道には大量のごみが目についたのだそう。家畜などの動物が誤って食べてしまい、死に至ることもよくあることだった。

残りの半年は女性たちが自らの意思で作ったエコバックが売れるように、そしてエコバックの普及によりカメルーンのごみ課題が解決できるように、レジ袋使用禁止の法律改正や行政機関等も味方につけて啓発活動を行うことが出来た。

地元の魅力を守っていく

小学校で国立公園についての説明をする古川さん

今、古川さんが環境省でやっていることは、当時協力隊としてカメルーンで行ってきたことと変わらない。地元民に寄り添い、地元の美しさを外からの目線で一緒に再認識しながら、地域を活性化させていく。

「頑張っている人が報われてほしい」そういって笑う古川さん。その笑顔と優しさには、ついつい本音を漏らしてしまう地元の人々も多いのではないだろうか。

余談になるが、今の一押しは岡山県玉野市の公務員アイドル、TMN4.8だそう。筆者も気になって、ついつい検索。頑張っている人を優しく応援する古川さんの笑顔にやられてしまった。

この記事の写真一覧はこちら