2023年1月、駅で突然姿を消した小学3年生のかなとくん。両親とともに外出した際、大好きなエレベーターを見つけて我慢できず一人で乗ってしまい、そのまま行方不明になってしまいました。かなとくんは自閉症で、中度知的障害があります。その後、無事発見に至ったのですが、そのきっかけになったのは、「この子には障がいがありますマーク」。当時の様子を、かなとくんの母親に聞きました。

行方不明から2時間後に発見、両親も予想外の場所に

「エレベーターに勝手に乗っちゃだめだよ、とは言ってたんですが、我慢できなかったんでしょうね。ちょっと目を離した隙に乗ってしまって、そのまま見失ってしまったんです。主人と手分けして、駅の構内や周辺はもちろん、自宅まで戻ったり、見かけたら連絡をくれるよう友人・知人にメッセージを送ったりして探し回りました。近くの交番にも相談し、警察の方にも一緒に探してもらって。探し始めてから1時間半から2時間くらい経って、警察犬を出動させようかという話が出たときに、私の携帯に電話があったんです」

その電話は、「男の子が一人で電車に乗っていますが、もしかして迷子ですか」というものでした。かなとくんは一人でいくつかの電車を乗り継いで、行方不明になった駅から電車で1時間ほどかかる、離れた場所にいました。発見者は、かなとくんがつけている「この子には障がいがありますマーク」を見て、裏側に記載された母親の携帯番号に連絡をくれたのです。

「この子には障がいがありますマーク」。かなとくんのマークは、裏面に「一人でいたら連絡をください」というメッセージと母親の電話番号が書かれています。

子どもが地域に出るきっかけに

「この子には障がいがありますマーク」のことは、約1年前に知人を介して偶然知り、それ以来外出の際にはかなとくんのリュックに付けていたという母親。「障がいがある」とストレートな言葉で書かれているため、付けるのを躊躇する人もいるようですが、かなとくんの母親は、このマークが障がいについて知るきっかけになれば、と話します。

「かなとに限らず自閉症の子は、パッと見ただけでは障がいがあるとわからないと思います。でも、むやみにエレベーターのボタンを押してしまったり、突然大きな声を出したりと、一般的にみると『困った行動』をしてしまう。そのたびに親は、謝ったり冷たい視線を浴びたり心無いことを言われたりして、その積み重ねでだんだん子どもを家から出さなくなってしまう人もいるんです。でもこのマークを付けていることで、周囲の方の対応がちょっと変わるように感じています。障がいのある子が『困った行動』をしてしまっても、このマークがあれば少し寛容になれるはずだし、『障がいがあるとこういう行動をしてしまうんだな』という理解にもつながる。そうやって、障がいのある子がどんどん地域に出て、社会と接することが大切なんだと思うんです」

多様性を認め合える社会に

「この子には障がいがありますマーク」を作ったのは、障がいのある子どもとその家族への支援事業を行う団体、パラリンビクス協会。代表を務める穐里明美さん自身も、障がいのある子どもを育てています。

パラリンビクス協会 代表理事の穐里(あきさと)明美さん。自閉症でワーデンブルグ症候群の長男、明ノ心(あきのしん)くんと。

「最初は私自身が、長男が2歳のときに病院から『この子には障がいがあります』と書かれたバッジをもらって利用していて、そのバッジに何度も助けられた経験があったんです。その後、バッジが古くなったので新しいものを探したんですが、もう手に入らなかったんですね。それなら自分で作ろうと、クラウドファンディングで資金を募って作りました」

2021年9月にマークが完成し、それから半年間はクラウドファンディングの支援金や自己資金で希望者に無料配布。今は協会のオンラインショップで販売しています。

「障がいのある子どもとの外出ってかなりの労力が必要なんです。外出している間だけでなく、その前日から段取りして頭のなかでシミュレーションしたりして。その心理的な負担を少しでも下げて、もっと気軽に外に出られるようになればという思いがあります。また、それまではお子さんの障がいのことをなかなか積極的に話せなかったけど、このマークを付けることで自らオープンに話せるようになったという声もあります。障がいのある子だけに限らず、いろんな個性がある人間がいて、そのことをお互い認め合えるような社会になってほしいと思っています」

「この子には障がいがありますマーク」を付けたところ。子どもが普段持っているバッグなどに付けて使用します。

最後に、かなとくんの母親がこう話してくれました。

「私は息子が障がい者だとは思っていなくて、息子と社会との間に障がいがあるんだと思っているんです。障がいがあるからといって子どもの行動を制限したくないし、今はどんどん行動範囲が広がる時期。かなとと私の間での約束事やルールはきちんと守ってもらいつつ、かなとのできることを少しずつ増やしていってあげたいです」

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