全国13都道府県で展開している「やさいバス」が、2022年11月から香川県でも走りはじめた。「やさいバス」とは、生産者と消費者を直接つなぐ、共同配送の新しいシステムだ。
たとえば県内(近隣)のA農園の大根とB農園のニンジン、C農園のイチゴを買いたい場合、1軒1軒買いに回るのは時間がかかるし、ネット通販では3か所それぞれに送料がかかり、現実的ではない。でも、A、B、C農園だけでなく、いろいろな生産者の農産物が、決まった曜日に近所の決まった場所に届けば、余計な時間もコストもかからず、新鮮でおいしい農産物が手に入る。

実際に走るのはバスではなくトラック。農産物の集荷場所や販売場所をバス停に見立て、決まったルート上の決まった場所、時間に配送トラックが走ることからバスの運行に見立て「やさいバス」というわけだ。

生産者はバス停となる集荷場に、野菜を届ける。

生産者は発注を受けた野菜を最寄りの「バス停」と呼ばれる集荷場所に届ける。それをやさいバス(=冷蔵トラック)が回収しながらスーパーなどの小売り店や飲食店に届ける、というしくみだ。

たとえば「野菜バス香川」の場合、月・水・金は、西讃(県内西部地域)方面、火曜は高松市方面と曜日によって届く場所が違う。購入希望者は直接店舗に買いに行くか、あらかじめやさいバスのホームページで予約しておけば、店舗で取り置きもしてもらえる。

やさいバスで店舗に届けられた野菜は、専用のコーナーに並べられる。

「やさいバス」で届いた農産物であることがわかるようになっている。

出荷する生産者にとってもメリットは大きい。たとえば一般的な農産物の流通には、サイズや重量などの規格があるが、やさいバスで扱うものにはない。出荷者自身が品質や味に責任をもち、価格も自身で決める。手数料は15%。1つ100円で出荷したら85円が入るというわけだ。しかも出荷した野菜は買取だから、売れ残りを引き取りに行くような手間がない。

こんなしくみが2017年に静岡からスタートした。静岡にはすでに60か所近いバス停ができている。今では、千葉、茨城、広島、愛媛など、全国13都道府県で運用されている。

やさいバス株式会社 加藤百合子代表取締役。やさいバス香川の出発式では関係者にエールを送った。

生産者説明会から1か月半のスピード展開

しくみを作ったのは静岡県牧之原市を本拠地とする、やさいバス株式会社。香川版は2022年5月、三豊市との縁がきっかけで準備を重ねてきた。最初に三豊市で説明会をしたのは2022年9月末。およそ50人、うち農業生産者は30人ほどが集まった。そこから約1か月半という短期間で運用開始。やさいバス代表の加藤百合子さんに話を聞いた。

「初めての説明会でたくさんの方にお集まりいただき本当にうれしかったです。とくに農家の方が多く、具体的な質問をたくさんいただいた点でも、ほかの地域に比べるとスタートアップが早かった印象です」

聞けば、当初のスキームは少し違ったという。 「最初は外食産業やホテルが取引先のメインでした。事業を立ち上げてすぐにコロナ禍となり、一気に売り上げが落ち込み、会社がなくなってしまうのではないかと慌てました。ところがコロナで広域流通が減少し、地産地消に弱い小売業が困っていることがわかり、流通の構造改革が必要だということが見えてきました」  

行動制限によって外食よりも家庭内消費が増え、地産地消というニーズがあちこちで起こったのが追い風となった。 「コロナの世の中になって、近くの人と幸せに暮らしていくこと、身近なものが大切と気づいた人が増えたのではないでしょうか。同時に、カーボンニュートラル(※)が広まってきた背景も、地域を回るやさいバスにマッチしたのだと感じています」 (※カーボンニュートラル=2050年までに温室効果ガスの排出ゼロをめざす国際目標)

 

「バス停」に届いた野菜を冷蔵トラックに積み込み、次のバス停へ。

やさいバスの利用で小さなコミュニティを充実させる

飲食スペースを備えた小さな産直市を運営する「藤塚町マルシェ」(高松市藤塚町)もやさいバスを活用している小売店のひとつ。店長の中木大輔さんに話を聞いた。「これまでは自分で車を走らせて仕入れに出ていました。今はやさいバスに配送してもらうことで、その分、お客様と会話できる時間が生まれました。これを機に細やかな店づくりができるようにと考えています」まさに、加藤代表が言う「近くの人と幸せに暮らしていく」そんな風景が生まれようとしていた。

香川の運用開始から2か月。今では香川県内24件の生産者が登録し、少しずつ利用者にも浸透しはじめている。今後、香川県内の拡充と、他県では兵庫県や滋賀県にもやさいバスを走らせる計画が動いている。

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