「醤トマト」。正確に読める人は少ないかもしれません。これは‟ひしお”トマトと読み、瀬戸内海に浮かぶ小豆島で、ある独特な方法で作られているトマトなんです。作っているのは、小豆島の運送会社の社長。醤トマトが生まれた経緯やその独特な栽培方法について取材しました。

小豆島の運送会社社長で醤トマト農家でもある竹本和史さん

醤油の搾りかすで育ったトマト

小豆島は古くから醤油産業が根付いており、今も多くの醤油蔵で昔ながらの木桶を使った醤油造りが受け継がれています。そんな醤油造りの際に大量に出る副産物が、醤油の搾りかす。それを肥料として育てたのが、醤トマトです。

これが醤油の搾りかす。ギュッと圧縮されてシート状になっているものを、細かく砕いて畑にまいています

醤油の原料は、大豆と小麦と塩。そこへ、おいしい醤油を造ってきた酵母菌や酵素、さらには旨味成分のアミノ酸やグルタミン酸が加わった搾りかすは、肥料にすることで野菜の甘みや旨味をぐっと引き出してくれます。

通常、塩分を含んだ土では野菜が育ちにくいですが、トマトは塩に強く、逆に甘みの強い実ができるのです。一般的に糖度8以上のものがフルーツトマトと呼ばれますが、醤トマトの糖度は平均して10~12。過去には糖度16のものもあったそうです。

平均の糖度が10~12という醤トマト

収益性の高い農作物を

醤トマトを作っているのは、小豆島の運送会社社長の竹本和史さん。そもそも、なぜトマト栽培を始めたのでしょうか。

「元々、農業に興味はあったんです。祖父や父も、運送業の傍らで米や野菜を育てていました。でも、これから先の農業を考えたときに、もっと収益性の高いものも作らないと続けていけないという思いがあって。そんなときに醤油の搾りかすがトマトの肥料になるという話を聞いて、試験的に作ってみたのが2014年。それを東京の仲卸業者さんが買い取ってくれることになり、2015年から本格的に栽培を始めました」

醤トマトのほとんどは東京都内のスーパーで販売されています

農業に関しては素人だった竹本さん。毎年試行錯誤の繰り返しだと言います。

「単に作るだけならいいんですが、できるだけ収穫量を増やしつつも質を落とさないという点が難しくて、品種もいろいろ変えたりして毎年実験しました。醤トマトを作り始めて7年目ですが、7年目と聞くと結構長いなと感じるかもしれませんが、まだ6回しか実験できていないということ。そこが農業の難しいところですね」

小豆島の山あいにある6棟のハウスで栽培

小豆島を「醤野菜」の産地に

苦労して育てた分、愛着もひとしお。「このトマトの味を知ったらほかのは食べられない」、「トマト嫌いの子どももこのトマトなら自分から進んで食べる」といった声を聞くと励みになると、竹本さんは言います。

出荷できない醤トマトを使い、地元小豆島の飲食店がソースを作って販売しています

「この醤トマトを、付加価値のあるブランド野菜に育てていくのが今後の目標です。そして、産地である小豆島のことや木桶仕込みの醤油造りについても認知が高まればと思っています。さらにもっと先のことで言えば、自分だけじゃなく島内の農家さんたちにも醤トマトを作ってもらいたい。そして、トマト以外の野菜作りにも挑戦し、『醤野菜』としてブランド化していきたいですね」

この記事の写真一覧はこちら