瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期が、8月5日からスタート。小豆島の中山地区で新たに公開された作品「ゼロ」は、竹を使った巨大な建築物をつくることで知られ、世界中で作品を発表し続けている王文志(ワン・ウェンチー)さんが手掛けたものです。約4000本の竹を編んで作られたこの作品は、周囲の棚田の風景に溶け込んでいることも特徴の一つ。6月の暑い日、制作中の作者、ワンさんに取材しました。

作者の王文志(ワン・ウェンチー)さん。制作中の作品をバックに

―この作品のコンセプトは
今回意識しているのは原点回帰。2010年、最初の瀬戸芸で制作した作品「小豆島の家」のイメージをベースに、今回で5回目となるのでその分の経験を上乗せして表現しています。竹のスロープを通って中に入り、そこで癒しの空間を体験してそしてまた出ていくという形。5回目という節目に原点回帰してそこから新たにスタートしたいと思っています。

「暑いなかの作業は大変」とワンさん。スタッフも汗だくで作業に励みます

―「ゼロ」というタイトルに込めたものは
タイトルは魂を表す「霊」から着想しています。「霊」は「れい」と読み、ゼロを表す「零」と同じ音です。私は作品を作るときは母親の胎内にいるような癒しや原始性を大切にしていますが、そういう意味も含めて『ゼロ』としました。

「この作品を通してここ中山地区が有名になれば」とワンさん

―大きな作品を作る上で大変なことは
作品を作るのに大変と思うことはないですが、やはり1回目、2010年の瀬戸芸での制作は大変でしたね。私の作品は地面に基礎を作る必要がありますが、この土地の土の性質などもわからなかったですから。地元の業者に希望を伝えてそれに合わせて基礎を作ってもらいました。

制作途中の作品。空に向かって伸びるこの竹を骨格とし、細い竹を編んで球体にしていきます

―コロナによる影響は
例年は2月に島に入って制作を開始し、4月の春会期から作品を公開していましたが、今年は自粛しました。春会期から作品を見ていただきたかったですが、15人ほどの制作チームで入国するので、島の人はもちろんチームのスタッフに感染が広がってもいけないと考えての苦渋の決断でした。

竹を必要な長さにカットして、一つひとつ手作業で組み上げていきます

―入国が遅れたことで制作に影響は
私たちが入国する前に地元の方々がたくさんの竹を切り出して準備してくれていました。また、作品の土台となる基礎も、地元の業者の方が作ってくれています。みなさんのサポートのおかげで、現場に入ってからはスムーズに作業が進められました。

地元住民によって切り出された大量の竹

細かく編む部分の竹は、専用の器具で細く割いています

―最後に作品の見どころを教えてください
竹のスロープを通ってドームの中に入り、らせん状に通路を下がって出ます。人の手で組み立てられた竹のドームの中にいると、まるで母親の胎内にいるような安心感に包まれます。今回の作品に設けた窓からは地元の食堂が見えるんですが、実はその食堂の方が、制作中毎日午後3時に差し入れを届けてくれて。とてもありがたいですね。地元の方たちに支えられて、この作品は完成しているんです。

作品と棚田の風景とが見事に調和しています

暑いなか、快く取材に応じてくれたワンさん。とても気さくで親しみやすい人柄もあって、地域の人たちは毎回制作をサポートしているのではないでしょうか。「棚田とこの作品はひとつ。作品を通して、棚田を含めたこの景色を多くの人に知ってもらいたい」という言葉が印象的でした。

この作品が展示されているのは小豆島の中山地区。夏会期(8月5日-9月4日)、秋会期(9月29日-11月6日)に鑑賞できます。

(通訳)平井英子

英語で記事を読む「Wang Wen-Chih’s Giant Dome Woven from 4,000 Bamboo with the Help of Local Residents Setouchi Triennale 2022」

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