オークションサイトやフリマアプリの登場で、個人間でも商品を郵送する機会が増えました。なかには商品の梱包方法に悩んだり、届いた品物が破損していてがっかりした経験がある人も多いのではないでしょうか。
そんななか、ある梱包の写真がツイートされ、そのこだわりがすごいと話題になっています。「梱包も芸術作品だ」「梱包も知恵や工夫が必要」「梱包も凄いけど作品がめちゃ素敵」というコメントで盛り上がっています。

このツイートをしたのは、木の彫刻を手掛ける・大竹亮峯さん。自然界のものをモチーフとし、作品によっては木や鹿の角を透けるまで細く薄く彫って制作しています。作品は制作に4か月~1年程度かかり、美術館で展示されるほか、購入することも出来るそうです。

そんな繊細な芸術作品の梱包方法から、盗めるテクニックや考え方はないのでしょうか。大竹さんに、詳しい話を聞きました。

究極の梱包とは

まず、梱包をするのに重要なことは何だと考えているか、質問しました。

「一番重要なのは、誰でも出せて誰でもしまえるということです。そのためには、『ここにこれを入れるしかない』という選択肢が極端に少なくなるように梱包を考えています。僕は、作品が300年くらいもってほしいと思っているんです。例えば、作品を購入したお父さんが亡くなってしまった時に子どもが整理することになっても、また元に戻せるのが理想ですよね」

大竹さんにとっての梱包は消耗品ではなく、長い間使用するケースのようなイメージであるという事が分かりました。

梱包された作品(大竹亮峯さんより提供)

大竹さんにとっての究極の梱包とは、作品が「箱の中に空中で固定される」状態とのこと。

ですがそれは出来ないので、少しでもその状態に近づけようと大竹さんが意識しているのが、梱包材と作品の「接地面」をなるべく少なくすることです。

ツイートでも紹介されている作品「祈り」の梱包で、箱の中に設置してある木の板は、大竹さんのお手製。作品の形に合わせて切り抜かれていて、その木の板と作品はほんの数か所が接しているだけです。

箱は、防火性と高温多湿な日本の環境に合わせて桐箱を使用。梱包するのにも、1日~4日ほどかかるそうです。

最小の設置点の割り出しに真弧という道具を使う(大竹亮峯さんより提供)

設置面を少なくすることともう一つ、作品の強度の高い部分と低い部分の見極めも必要だそうです。

「木彫刻というのは1本の木から彫り上げていきます。彫るっていう行為に力がかかるので、どこに重心をかければいいのか、どうやったら折れないで彫り出すことができるのか、頭の中に全部入っていないと作品を彫れないわけです。なので、どこに荷重をかけて運ぶのかというのは、考えるまでもない、という感じです」

大竹さんは、作品自体が高価ということもあり、箱を開けたときにも客に喜んでもらえるような梱包を意識しているということです。

「日本的な文化で鑑賞する時だけ作品を出すということがありますよね。掛け軸でも季節が変わったらしまったり出したり、雛人形もそう。しまうこと、出すこともお客さんの楽しみだと思うので、そこを演出したいですよね」

『エビちゃんはシートベルト方式。自在的な作品は動く分、力が逃げてくれるのでまあまあ大丈夫。なによりもこの作品は二重桐箱なので、火事があっても中は無事なのです。』(大竹亮峯さんより提供)

梱包のススメ

そんな大竹さんが、ネットショッピングなどの梱包を見て、感じることはあるのでしょうか。

「梱包が上手い人ほど少ない緩衝材で効果的に梱包していますよね。テープが足りなくて貼り直していたら、この人几帳面な人なんだなぁと思います」

『竹の水仙も仕切り板の引き出し固定式。』(大竹亮峯さんより提供)

最後に、一般の人が梱包する時に気を付けた方がいいことを聞きました。

「何を運ぶかによって全く変わると思うのでアドバイスはしにくいですね。ただ、『梱包する物の一番弱いところを見極めること』と『破損リスクの最悪を全て考えること』ではないでしょうか。滑って落とされたらこうなるとか重い物を上から載せられたらこうなるなど、そういう最悪のリスクを全部考えるといいですね」

「僕の場合は壊れちゃうと暮らしていけないわけですから、そういう意味で僕らにとって梱包は命がかかっているというところがありますよ」

『研ぎ場』(大竹亮峯さんより提供)

一度郵送してしまうと開ける相手の顔は見えません。しかし、誰かが開けて喜ぶ、そんな梱包をしてみたいと大竹さんの話を聞いて思いました。

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