雨上がりの讃岐路を白装束姿の外国人がお遍路体験を楽しんだ。2022年5月14日、香川県三豊市の「インパルみの」をスタート地点に、県内に住んでいる外国人9人と香川県国際課の職員ら総勢24人が歩き遍路を体験。2008年度から毎年2回開催している国際交流イベントだが、近年、コロナの影響のため年1回の開催に減っている。このイベントの参加は3回目というジュリア・サヌアさんとお遍路を歩いてみた。

スタート地点でお遍路の心得を聞く参加者たち

衣装の力でお遍路さんに変身 

「お遍路は一人で歩くのもいいのですが、みんなと話したり、専門家から歴史の話を聞いたりできるので、このイベントが大好きです」

菅笠と白装束、そして金剛杖にスニーカーといういでたちのジュリアさん。県の担当者から借りた巡礼道具を身につけると、あっという間にお遍路さんに変身した。他の参加者も白装束がしっくりきている。「衣装の力はすごいね」という声も。

お遍路さんを支える金剛杖と菅笠

大先輩(だいせんだつ)と呼ばれるお遍路のプロ、福田恵峰さんが先頭に立って、解説を交えながら歩く。この日は、JRみの駅前の「インパルみの」から善通寺まで約14キロの行程だ。途中4か所で参拝する。

金剛杖は「墓」でもあった

「この杖がね、四角いのは四国を表しています。袋を被せている先端は、お墓なんです。杖には梵字が書かれていて、どこで倒れても埋葬してもらえるようにという意味がありました」福田さんの説明に、生死をかけた壮絶な時代のお遍路が頭をよぎる。

福田さんによると、かつてのお遍路さんは道中で行き倒れることもあり、亡くなった時には見つけた地元の人が埋葬したという。

「『どうぞ、ここで倒れることなく、次に進んでください』という願いから、お接待が始まったんです。そして、埋葬は最大のお接待でした」

大先輩の福田さんを先頭にゆっくり歩いた

NY出身のジュリアさん「香川を楽しんでいます」

ジュリアさんたち一行は、風情ある住宅街の小道を抜けてゆっくりと71番札所弥谷寺に向かっていた。ジュリアさんは、坂出市内に3年ほど住んでいて、普段は高校で英語を教えている。米国ニューヨーク市出身なので、大都会とは全く違う香川の暮らしを楽しんでいるそうだ。

「うどん、大好きです。香川はお寺や神社がどこに行ってもありますよね。友達が来たら、近所のお寺を案内しています」

デジタルテクノロジーに興味があり、この夏に日本での仕事を終えたら、しばらく欧州を旅して米国に戻り、新しい仕事を始める予定だという。様々な立場の人にテクノロジーを教えたり、香川での教師体験を生かしながら次のステップに進む未来を語ってくれた。

甲山寺でお接待を受けた。「どれをいただこうかな」

手作り和三盆やアイスのお接待

午後になって空は晴れた。74番札所甲山寺では、お接待を体験。NPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」のメンバーがお菓子と飲み物を振る舞った。手作り和三盆やアイスも並んでいて、みんな迷いながら物色。自然と話の輪が広がり、香川で行ってみたい場所や海外の巡礼に行った話で盛り上がった。初対面同士でも、お遍路というキーワードがそれぞれを繋いでくれる。

「これで、最後の善通寺を目指して元気に歩けます」ジュリアさんが代表で、お接待にお礼の挨拶をした。

参加者を代表してお接待にお礼の挨拶

空海生誕1250年を控えてイベントも

ゴール地点は、75番札所善通寺。無事に全員が歩ききった。山門をくぐる時は、丁寧に一礼して歩みを進める。その礼儀正しい姿に、他の参拝客が見つめる姿も見られた。金堂前に集まり、鈴を鳴らす福田さんを中心に、お経を唱えながら参拝した。それぞれ、心の中で願い事をお祈りし、約14キロのお遍路体験は終了した。

2023年は弘法大師空海の生誕1250年を迎える。NPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」も様々なイベントを計画中で、国籍を問わず、改めて空海を見つめ直す一年になりそうだ。

このお遍路体験は、11月19日にも開催が予定されている。

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