「自動販売機の可能性を追求していきたいですね」
目を輝かせながら話すのは、コオロギなどの昆虫食やさまざまな食材の自動販売機専門店「自販機ランド」のオーナー、氷室信康(ひむろのぶやす)さん。
そんな氷室さんに、昆虫食自販機誕生のワケ、今後の展望について聞きました。

事業で成功するもコロナ禍で苦境へ。そこで昆虫食に出会う

今後の展望を語る氷室さん

元々は父のオルゴール販売会社に勤めていたという氷室さん。

売り上げは好調だったものの、自分の裁量で物事を進めたいという思いから独立し、結婚式などの引出物として名前入りのオルゴールを販売。オルゴールの市場でトップの売り上げを出すことに成功しました。

しかしながら、通販が台頭すると同時に価格競争に巻き込まれ、少しずつ売り上げが減少。コロナ禍における結婚式の自粛も手伝ってオルゴール事業から撤退することになりました。

そんな時、昆虫食との出会いが訪れます。

実は氷室さん、過去に一風変わった食品を作っていた経験があります。作っていたのは、北海道小樽市をPRするオリジナルキャラクター「ゾンベアー」をモチーフとした青色の「ゾンカレー」「ゾンラーメン」。その経験が買われ昆虫食作りの依頼がかかります。

食欲減退青いスープカレー(氷室さん提供)

コオロギが大活躍する未来が見えた

当時、昆虫食に対するイメージは“罰ゲームで使われるもの”という程度の認識だった氷室さんですが、昆虫食の中でも「コオロギが大活躍するな」と思う理由がありました。

「大手企業は賞味期限が一定以上短いと買ってくれなくて、暗黙の了解で捨てることになってしまうんですよね。なので雑食のブタさんにその商品を食べさせて食品を循環をさせてるんですが、ブタさんを飼うには設備も場所もお金も問題になってしまいます。そこでコオロギが注目されたんですよね」

コオロギは雑食でありながら、ブタよりも狭い土地で安価に飼いやすく成長速度も速いため、SDGsの目標にもあるフードロス問題にも効率的に対処できるといいます。また、コオロギの栄養価の面でも低脂質で高タンパクであることから、健康面、環境面において注目されている存在だと話します。

昆虫食は無関心にならず、議論を呼べる

昆虫食の自販機(氷室さん提供)

栄養価があるという話から、コオロギが食卓に並ぶのが理想なのかな?と筆者は話を聞いていて思いましたが、氷室さんは全く違うビジョンを描いていました。

「SDGsで昆虫食は本当に優秀なんですよね。昆虫食の自販機は素通りされないんです。好きか嫌いかの感情が出るので。そこで『なんで虫なんか食べるんだ!』って怒るのもよし。『興味あるな』って食べるのもよし。その議論を呼べるのは昆虫だからなんですよね」

ただSDGsを訴えるだけでは注目を集めづらく、昆虫食のように「白か黒か」に分かれるものは貴重なんだとか。

「昆虫食を罰ゲームに使うな!と怒る人もいるんですけど、私はむしろドンドン使ってほしいと思います。まずは嫌いでいいから、知ってもらってSDGsに興味を持ってもらう段階だと考えています」と、SDGsを知るきっかけとして大きな期待を寄せます。

自販機は未来にマッチした販売方法

自販機ランドの前に立つ氷室さん

その昆虫食の自販機を導入しようと興味を持ったタイミングで、自販機自体の可能性にも目をつけたという氷室さん。

「自販機の法改正で食品を幅広く販売できるようになったので、自販機ランドをやってみたいなって思って3か月で店を建てました。場所もそんなに広いスペースもいらないし人もいらない。未来にマッチした販売方法だなと感じます」と喜々として語ります。

自販機で北海道の美味しいものを全国へ

多種多様の自販機

また、氷室さんはコロナ禍で苦しむ飲食店と協力し、北海道の名産品である「スープカレー」「ラーメン」「海産物」を全国展開させたいと語ります。

「スープカレーやラーメンは冷凍で販売するのが一番いいんですけど、北海道だと送料の方が高くなります。それなら自販機で買えるようにできればお互いによいのではと。しかも今は真空冷凍技術が発展して、丁寧に解凍することで北海道の美味しい刺身が全国どこでも食べられるようになったんです。これが浸透していけば観光客が呼べなくて困っている飲食店を支えられるのではないかと感じます」

昆虫食と自販機で社会問題に挑む。氷室さんの取り組みはまだ始まったばかりです。

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