環境保護を意識し、買い物の際に持ち歩き、不要なプラスチックバッグを減らすため、以前に比べ持つ人が多くなったエコバッグ。エコロジーなバッグという観点で言うなら、着なくなった衣服をリメイクするバッグもエコバッグと呼んでいい。
沖縄県那覇市に拠点を持つバッグブランドが製作・販売する、あるバッグが注目を集めている。企画者である上原哲郎さんにその魅力や製作のきっかけを聞いた。

企画者である上原哲郎さん

身近な人から聞いた衣服の悩みがアイデアのきっかけ

上原さんは、沖縄県那覇市の国際通り近くにある沖縄アート雑貨セレクトショップ「沖縄の風」のオーナー。沖縄のクラフト作家を応援したいという思いから、在沖縄本島の作家ものをメインに各地の工房を巡って作品を集め、2010年1月にショップをオープン。

国際通りの近くにある「沖縄の風」

その後、以前からモノ作りが好きだったという特技を生かし、上原さん自身が企画・デザインした帆布バッグを八重瀬町の工房で製作して販売。現在は「琉球帆布」の名前でショップの人気アイテムの一つとなっている。

デザインや柄も多彩「琉球帆布」のバッグ

バッグ作りに携わるなかで近年、気になるようになったのは、年々廃棄される衣服量の問題。「同じ頃、沖縄の複数の友人から、着る機会のないかりゆしウエアがタンスの中にいっぱいあって、どうしようかと思ってるという声をよく耳にするようになって」と上原さん。

かりゆしウエアとは、沖縄で夏の暑い季節に着用される半袖シャツで、2000年の沖縄サミットを機に広く着られるようになった、いわば県民のフォーマルウエア。それだけに華やかで美しい色や柄のものが多い。

沖縄で夏の暑い季節に着用されるかりゆしウェア

「どうせいつかは捨てられる運命ならば、いっそバッグに仕立て直して第二の人生を送らせてあげたい。そこで考えついたのがアップサイクルバッグなんです」

アップサイクルとは、捨てられるはずだった廃棄物や不用品を、新しい製品にアップグレードすること。廃棄物から新たに生まれるリサイクルの一つの形だ。

パンプキン型のほか、トート型にも加工できる

職人泣かせのユーズド生地。だからこそ作りがいも

アップサイクルバッグは、横50cm、縦32cmの生地が2枚裁断できるものであれば加工できる。スタッフが客と直接やりとりしながらデザインや仕様を決め、それをもとに工房で仕立て直していく。シャツの前立てやボタンをそのままデザインに生かすこともある。
ただ、着古した洋服からバッグを作るのは簡単ではない。バッグの素材となるウェアは生地の傷み具合、厚みなどが生地ごとに異なるうえ、質感の柔らかい生地はバッグとしての強度が足りないため、裏地に帆布を使い、補強することも必要だ。こうして細かい調整を経てオンリーワンのバッグが仕上がる。

バッグは八重瀬町の工房で製作

持ち込まれるのはかりゆしウェアだけではなく、母親から譲り受けた久米島紬の反物や帯、かりゆしワンピース、使わなくなった風呂敷などもある。
「一点一点が大切な生地ですし、ミスは許されません。試し縫いもできないので、思いのほか手がかかるんです」
長年バッグやポーチ作りに携わってきたベテラン職人でさえ、一つのバッグを作るのに約1か月、通常の約3倍の時間がかかるという。

1針1針丁寧に縫っていく

思い出とアップサイクルバッグと共に新たな人生を歩み出す

アップサイクルバッグ作りを始めてみるといろんな人からの反響があった。なかでも印象に残っているのは、亡くなった夫のかりゆしウェアをバッグにしたいと言って持ち込まれたケース。
「バッグにして持ち歩けば、主人の思い出がより身近に感じられると思うんです」
そう言って、バッグを手にした時のうれしそうな顔が忘れられないという。

思いのこもった衣服が愛着の湧くバッグに生まれ変わり、手にする人の思いやストーリーが継がれていく。それは図らずも自分自身のやりがいにつながっていることを教えられたという上原さん。

「今後はもっとデザインを増やしていきたいですね。また、今まではかりゆし中心でしたが、それ以外のものでも思い出のあるもの、捨てられないものがあればどんどん持ってきていただきたい。新しいバッグに生まれ変わり、いつまでも大切に使ってもらえるなら、作り手にとってこんなうれしいことはありません」

デザインや柄も多彩「琉球帆布」のバッグ

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