作品だけでなくアーティストにも興味を持って

「自分自身もアートの一部。ただ作品を見るだけじゃなくて、どんな人がどんな風に作っているかを知ることで、より興味を持ってもらえると思うんです。だから、作品だけじゃなく僕のことも見てほしい。最近はアートと一体化したいという思いが強くなって、自分もアートの一部になったように見える写真をSNSに上げたりしています」

松岡さんが小豆島で制作した作品「化け物の愛」

こう話すのは、大阪を拠点に活動する現代アーティストの松岡龍一さん。ライブペイントなどのパフォーマンスのほか、舞台や展示などさまざまなスタイルで作品を発表。ほかのアーティストとのコラボも多く、西陣織作家である祖父とのコラボ作品がミラノのコンペで採用されたこともあります。

「化け物の愛」は、アクリル絵の具とラッカースプレーで制作されています

「大学を卒業後、元々好きだった写真の道へ。カメラマンとしてブライダル写真を撮ったりしていたこともありますが、表現への欲求が強くなり、モノクロ写真の作品を発表するようになりました。そこからさらに躍動感のある表現を、動きのあるものをと模索していった結果、今のようなペインティングを軸にした表現をするようになりました」

香川・小豆島でアート展を開催

そんな松岡さんの小豆島初イベントが、11月20日から23日までの4日間開催されました。「臨景」と名付けられたそのイベントは、松岡さんと、服飾作家のgwai.(がい)さんによる2人展。小豆島にある倉庫を会場に、2人の作品を展示しました。

gwai.さんと松岡さん。会場となった倉庫の外壁にも松岡さんがペイントを施しました

このイベントは、“持続可能なアート展を小豆島から発信していこう”と始まったもの。香川県の島々には3年に1度行われる瀬戸内国際芸術祭という大きなアートの祭典がありますが、それとはまた別に、“もっとアーティストを身近に感じられるようなものを”と企画されました。

松岡さんが作品制作時に着ていたつなぎも、作品の一部になっています

松岡さんは倉庫の2階の2部屋を使い、部屋全体を大胆にペイント。「化け物の愛」というこの作品は、「化け物みたいな、狂気だけれど真っ直ぐな愛」をテーマにしています。「普段これほど大きい作品を作れる機会はないので、とてもワクワクしながら取り組みました」と松岡さん。ほとばしるエネルギーが壁面にあふれています。

何度も塗り重ねられたスプレーや絵の具。指を使って描かれた部分もあります

服飾作家のgwai.さんの展示は、松岡さんとは対照的。色味を抑えた空間に、洋裁用マネキンと平紐を使ったインスタレーションが浮かび上がります。人体にまとわりつく紐は外敵から身を護る繭のようでもあり、また、妖精の背中に生えた大きな羽のようでもあり、見方によってさまざまなイメージがわくこの作品。奥の壁に浮かび上がる影もまた、そのイメージを膨らませてくれます。

gwai.さんの作品、「島の妖精 ~繭が孵るとき~」

服飾の技法を表現のベースとしながら、さまざまな素材でイメージを展開するgwai.さんの作品。「作品についてあまり語らない作家もいますが、僕はできるだけ話すようにしています。そうすることで作品の見え方も変わるだろうし、僕もお客さんと対話することで新しい気づきをもらえたりします」

小豆島での作品発表は今回が初となるgwai.さん

今回のイベントを通して島のいろいろな人とつながりができたという2人。「出会う人みんなが本当によくしてくれて。僕らが作品を制作しているのを見て、近所の素麺店の社長がみかんを差し入れてくれたり」と、地元の人の温かさに触れたと言います。

「小豆島には、瀬戸芸のおかげでアートの土壌があることに加えて、お遍路のお接待文化があることも知りました。いい場所だな、またここで何かやりたいなと思いました」

会場には松岡さんが描いた下絵をgwai.さんが刺繍した、2人の合作ののれんがかかっていました

会場となった倉庫がある場所は、小豆島オリーブ公園にほど近い島の観光の中心的エリア。今回限りではなく、今後も地元の人たちがイベントなどで使える場になってほしいと2人は話します。

「年に1度のアートのお祭りを、と始まったこの企画。来年の秋、次はどんな形で開催されるか、僕たち自身も楽しみにしています」

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