埼玉県三郷市にあるハンドメイド雑貨店「惑星座」は土・日・月曜日の3日間だけオープンしています。プレハブ造りの外観からはどのような店なのか見当がつきません。小窓からこぼれる温かみのある灯りに惹かれ、扉を開きます。

ハンドメイド雑貨店「惑星座」外観

静かな佇まいの店主兼造形作家marikaさんに、造形作家としての活動や、店をオープンした経緯、そしてハンドメイド雑貨に対する思いについて聞きました。

椎間板ヘルニアがきっかけで造形作家の世界へ

marikaさん自身もハンドメイド雑貨のアーティスト。雑貨店「惑星座」とは別の「枠星屋」という名前で活動しており、自身を「造形作家」と呼ぶことにこだわりをもっています。視覚的なもの以外にも、言葉で構築する世界観づくりにも慎重です。

marikaさんはゲーム会社に所属し、グラフィックデザイナーとして活動していましたが、朝から夜遅くまでのパソコン作業により腰を痛め、椎間板ヘルニアを患ってしまいます。そこで、もともと作るのが好きだったというハンドメイドの世界に飛び込み、造形作家に転身。2007年に、「枠星屋」という名前で、空想的なアクセサリー制作を開始しました。

枠星屋の「タビオトモ」シリーズに込めた願い

marikaさんは、ハンドメイド雑貨のお店は「惑星座」、自身の作品『タビオトモ』シリーズを発表する際には「枠星屋」と棲み分けをしています。

同じ店のなかにあっても別の惑星であるかのような世界観づくりに心酔するファンが多く、枠星屋の人気商品は「抽選制」で購入権を獲得するそうです。

タビオトモシリーズ

「ほんとうに心苦しいのですが、タビオトモはいつも抽選になってしまいます」

タビオトモシリーズは、marikaさんが丹精込めて一つ一つ作り上げるため、制作に時間がかかるそう。数か月、数年と購入の機会をうかがい、待ちわびているファンもいるほど、熱烈な支持を受けています。

枠星屋の「タビオトモ」とは少女のような、少年のような、人間のような、天使のような柔らかな表情を浮かべるキャラクター。神聖さと、どことなく闇や影の部分を持ち合わせている印象の神秘的な作品ですが、“タビオトモ”とはどのような意味をもつ作品なのでしょうか。

「『旅のお供』という意味を込めています。旅とは人生を指しています。それぞれみなさんの人生という名の旅のお供に……という願いを込めて」

また、タビオトモを愛する客は、作品を「お迎えする」という言葉を使うことが多いそう。購入という言葉を「お迎えする」という言葉に置き換えて迎え入れたアクセサリーや雑貨を、"各々の人生の旅のお供にする"という決意をもっているようです。

タビオトモシリーズ

「タビオトモをお迎えしてくれた方がそれぞれ好きにお名前をつけてくれます」

名前を授けたタビオトモに愛着をもち、一緒に外出を楽しむような人もいるそうで、カフェや公園、旅行などに出かける様子を自身のSNSに投稿するファンも。世界にひとつの名前を与えられて完成するのがタビオトモ。購入した作品とどのような物語を紡ぐかはそれぞれにお任せとmarikaさんは話します。タビオトモは、客の手に渡り、愛されて完成するハンドメイド雑貨なのです。

湖畔のプリマとオパールの国の宝石猫

雑貨店「惑星座」の店内はまるで小宇宙

「惑星座」店内。ずらりとハンドメイド雑貨が並ぶ。

marikaさんの作品も店の一角に並ぶ雑貨店「惑星座」は、2008年に三郷市早稲田に、オープンしました。作家からの“店に作品を置いてほしい”という声が絶えませんが、現在は20名程度のハンドメイド作家が制作した一点ものの雑貨を揃えていて、marikaさんが「秘密なんです」という独自のルートで入手する希少な「魔法色の古ガラス」だけを取り扱っています。

新緑のリドーと夜の六角ランプ

店のテーマは開店時からずっと変わらず、「星の煌めきのように、一つ一つの作品が瞬いている小惑星」と語るmarikaさん。ずらりと並ぶ雑貨を見渡してみると、月や星をモチーフにしたものが目に留まります。

月光下の宇宙のなる樹とおばけ星さま

marikaさんが演出する隅々まで行きわたった世界観。惑星座の世界観は、科学が進化した現代でもまだまだ未知数の宇宙のように、現実世界から離れた無限性が感じられます。ふと現実に戻ってしまうことがないように、細部までこだわりぬいたディスプレイであると筆者の素人目で見ても分かるほど。空想のなかで遊ぶのが好きな人が安心して没頭できる雰囲気です。

「空想が好き、おとぎ話が好きというお客様が多いかもしれませんね」

一歩近づき目を凝らして並んでいる雑貨を見ると、その精巧さに驚かされます。こだわり抜かれた繊細なその雑貨は、間接照明で照らされて静かに煌めき、眺める位置が少し変わるだけで色味が変わったり、陰影があったりと、心惹かれる作品ばかりです。

夜渡鳥の卵

「将来はミニ美術館のようなものを作ってみたいのです。タビオトモの絵本も作ってみたいと考えています」とmarikaさんは話してくれました。

取材のあいだも、惑星座を訪れる客が後を絶ちません。
狭い店内で人生の「旅のお供」を探している人、自分自身の分身を探している人、それぞれの物語に思いを馳せながら、店を後にしました。

現実世界からふと旅をしたくなったら、惑星座・枠星屋という名の小宇宙を覗いてみてはいかがでしょうか。

「惑星座」店内。まるで小宇宙のような空間。

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