岡山県奈義町で、洋画家のアトリエとしてかつて使われていたスペースが、新たなギャラリースペースとして生まれ変わりました。自身でリフォームしたギャラリーを新たな拠点として活用し始めた革細工作家の栗原立さんに、革細工の魅力と、新しくできたギャラリースペース「Studio Moim」について聞きました。

さまざまな人が集う場所に

奈義町行方にある、ギャラリースペース「Studio Moim」。「Moim」は韓国語で「集まる」を意味します。栗原さんが手掛ける革細工作品の展示だけにこだわらず、映像作品の展示など幅広く使えるように、ギャラリー内には高さ約4m幅6mの白い展示壁が掲げられています。

このギャラリースペースは、奈義町出身の洋画家、故・鷲田重郎さんが、かつて自身の作品を展示していた場所

11月27日からは、山陰(鳥取・用瀬町)と山陽(岡山・奈義町)を舞台に開催される「陰と陽」がテーマとなった美術展「Yin-Yang(イェンヤン)」で、映像展示会場として使われています。

11月27日からは、革細工と共に映像作品も楽しめる

「今まではネット販売が中心だったけど、このギャラリーにいろんな人に足を運んでもらって革細工を手にとってもらえたらいいかな。あと、革細工の簡単なワークショップなんかはできるかな。奥さんは、ここで韓国語教室、演劇ワークショップとかいろいろやりたいみたいなので、革細工展示以外の使い方は任せています」

温かみのある木製ロッジ風のギャラリー

自然の中で生活する

東京都出身の栗原さんが、金沢と富山を経て、妻とともに奈義町に移住してきたのは2018年。幼い頃から大自然の中でキャンプをしたり、長期休みには森の中で生活したりした影響から、自然豊かな場所で生活したいという思いが募っていました。

「住む場所にこだわりはなかったけど、自然の中で暮らしたいと思っていました」

自宅はすべて栗原さんがひとりでリフォーム

東京、金沢、富山で生活していた家々はすべて、古民家を自身でリフォームして生活してきました。

「自分たちで直して、やっと生活できる状態になったと思ったら、奥さんが奈義町に行きたいと言い出し、奈義町に居を構えることになりました。今の家のリフォームは4軒目です。まだまだ、家のことでやらないといけないことたくさんあるので、もうお腹いっぱいって感じです」

古民家を自身でリフォームし、生活空間をつくる

誰かがやっているんだから、きっとできる

自宅やギャラリースペースのリフォームをしながら、栗原さんが取り組むのは、革細工制作です。「ryu.designworks」として、財布やキーケース、名刺入れ、アクセサリーなどを作っています。

鹿の角の上にディスプレイされた真鍮アクセサリーひとつひとつ手づくり

幼い頃から、手仕事をしていた親や知り合いの影響もあり、ものづくりに興味を持ちました。革細工を本格的に始めたのは20歳の頃。

「欲しかった財布が高価で手を出せず、こんなに高いものにお金を出すんなら、自分でも作れるんじゃないと革づくりをはじめたのがきっかけです」

デザインは、どうやったら使いやすいか、見た目もどうしたらいいかを考えながら、オーダーを受けてからすべて手縫いで作りあげていきます。

革の財布にひと針ひと針丁寧に縫い上げる手縫い

命を余すことなく活用したい

栗原さんは、メインとなる牛革に加えて、猪、鹿、熊などの野生動物の革を扱います。

「富山にいた頃、猟師である友人が、猪などの精肉加工する場所をつくって精肉販売を始めました。『猪の皮があるけどいる?』と聞かれたちょうどその頃、害獣駆除の話題もあり、猪の皮を鞣し、革にしてくれる加工場(タンナー)ができたのがきっかけです。友人は、革細工をすることを前提に丁寧に皮をはがしてくれるので、保存状態もすごくいいんです」

藍染をした猪革

猪や鹿などは革製品として使うために狩猟されたものではなく、害獣として駆除されるものや害獣対策で食肉用として利用される野生動物の皮を使っています。近年、鹿や猪の食肉がジビエ料理として親しまれるようになりましたが、皮については廃棄処分されることが多いのが現状だそうです。

経年変化を楽しんで

「革製品は、経年変化を楽しめ、それぞれの革は手触りが違います。部位によって、革の硬さ、見た目のきめの細かさも違います。革の表面をよく見ると、それぞれの動物の毛穴が残っているのが分かりますよ」

猪革の財布 表面に毛穴が残っているのが分かる

軽くて、しっとりと肌に吸い付くような肌触りが魅力の鹿革や、水や汚れに強く、程よい柔らかさのある猪革、年に数頭しか捕獲されないめずらしい熊革。野生動物の種類によって質感や風合いに違いがあり、牛革や豚革とは異なる魅力があるそうです。

猪や鹿、熊などの野生動物の皮をなめし加工し、革として活用したジビエレザー

「ミシンは基本使いません。手で縫っている時は、嫌ではないけど、革からパーツごとに切り出すのが大変です。傷をなるべくつけないように、どこから取ると効率よくできるかとか、次のことを考えながら切り出していきます。大量生産だと、あまり何も考えずにたくさん切り出すんだろうけど、貴重な革、そういうわけにもいかないので」

革の財布にひと針ひと針丁寧に縫い上げる手縫い

いただいた命を余すことなく「見て、触って、使って、イイと思えるモノ」をひとつひとつ丁寧に仕上げる。手作業で丁寧に針を入れられた温かみのある革細工を、「Studio Moim」で手にとってみてはいかがでしょうか。

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