結婚式直前に夫が脱サラ、妻はコロナを機に退職 仲良しフリーランス夫婦の生き方とは

「sima sima」の森亮介さんと理恵さん夫妻(写真提供:sima sima)
「sima sima」の森亮介さんと理恵さん夫妻(写真提供:sima sima)
香川県に「sima sima」という名前で活動する夫婦がいます。その活動内容は、民泊やレンタルスタジオ、弁当販売に出張カフェ、投資セミナー、インテリアコーディネートなどさまざま。元はともに会社員だったふたりがそれぞれの得意分野を生かしてフリーランスで働くようになった裏側には、人生をもっと楽しく豊かにしたいという思いがありました。
元々はそれぞれ会社員として働いていた森さん夫妻。夫の亮介さんが仕事を辞めたのは2019年、ふたりが結婚式を挙げる直前のことだったと理恵さんは言います。
「結婚式の出席者はザワつきましたよ(笑)旦那無職!? 大丈夫!? って。でもそのときは私がまだ会社勤めしていたし、また何かやりたい仕事を見つけて始めてくれたらいいやと気楽に考えていました。なのに、それから2年もしないうちにまさか自分も会社を辞めることになるとは。完全に亮介さんに影響されましたね」
元々料理が好きだった理恵さん。漠然と、定年退職した後に自分ひとりでのんびり小さい店ができたらと考えていたそうです。
「でも亮介さんに『なんで定年後なん? すぐやったらええやん』って言われて。『少しでも若いときにチャレンジしたほうがエネルギーもあるし、失敗しても修正がきくやん』って。自分もまだ当時仕事を辞めたばかりで無職なのに、私まで無職にさせようとするんですよ(笑) それですぐ辞めはしなかったですけど、でも『やりたいことは口に出した方がええよ』と言われて、友人とか身近な人にその夢を話すようになったんです」
そんなとき、亮介さんの友人の飲食店経営者から声がかかりました。
「将来お店やりたいんだったら、月に1回うちで何か出してみたら?って言われたんです。お店をやる練習にもなるし、人に食べてもらううれしさもわかるよって。そのときは本当にできるのかなって怖さもあったけど、これは乗っからなきゃいけないと思って、思い切って始めました」
これを機に「sima sima」という屋号を付け、会社員として働きながら月に一度の出店を続けているうち、コース料理を作ってほしいなどさまざまな要望が出てくるように。飲食ってやっぱり楽しい、そう実感していたところにコロナウイルスがまん延し始めたのです。
「営業職だったので、外回りをしてお客さんに会ってなんぼの仕事だったのが、まったく人と会えなくなった。さらにリモートワークで出勤もしなくてよくなった。それまで『私がやらなきゃ会社のみんなが困る』と思っていたけど、意外と会社って私一人いなくても大丈夫なんだなって実感したんですよね」
「そんなときに著名な人がコロナで亡くなるニュースがあって。あ、人っていつ死ぬかわからないんだなって思ったら、急に『時間がもったいない!やりたいことはすぐやらなきゃ』って思って。その矢先に会社の早期退職の話が出たので、何の迷いもなくすぐ手を挙げました」
「とは言え、別に料理で身を立てようなんて思っていなくて。自分は専門的に学んだわけでも修業したわけでもない、ただの料理好きという引け目は今でもあります。ただ、これでどれだけ稼げるかというより、どれだけ楽しめるかなという思いが強かったですね。料理は、周りの人たちが楽しく笑顔で過ごせる場を作るツールの一つという感じです」
一方で亮介さんは、脱サラから3か月ほど経って民泊をスタート。一時期は海外からの旅行者が長期滞在するなど順調でしたが、コロナでそれも一気にストップ。民泊の利用者がいなくなったため、レンタルスペースとして貸し出したりしていました。
「それも行動が速くて。YouTubeでレンタルスペースっていう商売ができると知るや、そのユーチューバーに会いに行ってやり方を教えてもらって、それをすぐ取り入れて。そういう行動力はすごいと思います」と理恵さん。
「今はレンタルスペースも全部民泊に戻して、あとはダンスのレッスンなどに使えるレンタルスタジオを2つ運営しています。そうやって仕事もしながら趣味の登山や旅行もしっかり楽しむ、そのためにお金の不安をなくしたいと思って、お金のことはかなり勉強しました」
そう話す亮介さん、実は脱サラ後に株のトレーダーになろうと猛勉強しましたが、結局失敗して諦めた経験があります。今はその経験も糧に、さらに勉強を重ねて身に付けたノウハウを、投資セミナーという形で身近な人たちに広める仕事もしています。
「やりたいことがあるのにできないとか、嫌いな仕事を我慢してやってる、その最大の障壁ってお金ですよね。それが取り除かれると、途端にみんな発想や行動が自由になる。それがこの仕事のやりがいで、楽しい部分。仕事を辞めて好きなことを始めた人もいるし、元々フリーランスだった人も新しいことにチャレンジし始めたりして。単にお金を増やすノウハウを教えるというより、もっといろんな選択肢があって、自由に決めていいんだという方にみんなの思考を変えていきたいんです」
会社員からフリーランスに転身し、自分の夢を周囲に話しながら好きなことを仕事にして少しずつその幅を広げてきたふたり。雇用関係を結ばなくても、みんなの得意技を生かしてイーブンな関係で仕事ができることにここ数年で気付いたと亮介さんは言います。
「ええなと思ったことは何でもやってみるようになりました。『こんなことやって、どう思われるだろう』なんて考えず、恥を捨てて何でもやったらいいと思う。それでまた新しいコミュニティができるから。この数年で自分たちのまわりにできたコミュ二ティをこれからもっと広げて、自由な生き方をする仲間を増やしていきたいですね」
「わたしたちって全然特別じゃなくて、ほんとに普通の一般庶民。でも、好きなこととか得意なことをやって実際生きてるし、そうできるよって周りの人にも教えてあげたいです。あと飲食の面では、ゆくゆくは自分の基地となる場所を持ちたいかな。今の根無し草も楽しいけど、やっぱりみんなが集まれる場所があるのもいいなと思います」
言葉で言うのは簡単だけど、実行するのは難しそうな「自由な暮らし」。ふたりを見ていると、「自分にもできるかも」と少し頭がやわらかくなった気がしました。