2023年1月から2月まで、香川県小豆島にある美術館「MOCA HISHIO ANNEX」にて絵画展「タカヤくんとその仲間たち展」が開催されていました。タカヤくんとは、兵庫県在住の23歳の男性。3歳のときに自閉症と重度知的障害の診断を受け、現在は障害者生活介護施設に通所しながら主に土日を使って自宅で絵を描いています。そんなタカヤくんの絵が、なぜ小豆島で展示されることになったのでしょうか。

絵画展を開催したタカヤくん

生きものや自然の植物を独自の視点で切り取るタカヤくんの絵。対象のエネルギーや楽しい気持ちが伝わってくるような鮮やかな色彩が特徴的です。その絵に魅せられ、今回タカヤくんと小豆島の美術館をつないだのが、タカヤくんの母親の友人で俳優の福麻むつ美さん。福麻さんがMOCA HISHIO ANNEXのオーナーと知り合いだったことから、タカヤくんを紹介し、今回の絵画展開催に至ったのです。タカヤくんにとっては初の個展となりました。

福麻むつ美さんとワハハ本舗前座長の佐藤正宏さん。ふたりが着ているのはタカヤくんが絵を描いたシャツです

福麻さんとともにタカヤくんの活動を応援しているのが、ワハハ本舗の佐藤正宏さん。佐藤さんはさまざまな場所で紙芝居を披露しており、その際に着るシャツや自転車にはタカヤくんが絵を描いています。今回の個展の期間中にもふたりは小豆島を訪れ、館内で歌や紙芝居のパフォーマンスを披露しました。

右側は1辺1mを超える大きな作品。ライオンやキリン、ゾウなどの動物が生き生きと描かれています

タカヤくんが絵を描き始めたきっかけは何だったのでしょうか。タカヤくんの母親に話を聞きました。

「自閉症の子って、何もしない暇な時間が苦手なんです。だから、ピアノやパズルや簡単な四則計算などをさせて、とにかく暇な時間を埋めて落ち着いて生活できるようにがんばってきました。絵もその一つなんです」

「小さなスケッチブックとペンを渡していたら、だんだんとおもしろい絵を描き出したんです。それに色を付けるとさらに独特なんですよね。そのうちの一つをむっちゃん(福麻さん)に送ったら、『地球みたいなヒヨコや、笑える』とかコメントが来て。むっちゃんが笑ってくれるのがうれしくて、タカヤにどんどん描いてもらって送っていました」

古いレンガ倉庫を改装した美術館に、タカヤくんの絵が飾られています

福麻さんはかつて、ガンで余命宣告を受けた経験があります。そんな闘病中の福麻さんを笑わせようと、お母さんはタカヤくんにたくさん絵を描いてもらいました。そうするうちに周囲の人たちが興味を持ってくれるようになり、知り合いから「こんな絵を描いてほしい」と依頼を受けて描くようにもなったそうです。

「そうやってどんどん描いていただけなので、こんな個展が開けるとは驚きです。まさか額に入れて飾られると思って描いてないから、タカヤの絵にはだいたい枠とか縁取りがあるでしょう、あれは自分で額を描いてるんですよ」

どの絵にもカラフルな縁取りがされています

今回初の個展を開催したタカヤくん。今後も絵を描くことは続けていくのでしょうか。

「これをきっかけに絵の世界で羽ばたいていこうとかいう考えはまったくなくて。タカヤが毎日落ち着いて暮らせることが一番で、たとえば歯磨きや髭剃りが自分でちゃんとできるとか、そんな日常に絵がくっついているという感じですね。大切なのは普段の生活。彼の人生のなかで何か楽しいことができたり、何か残せるものができたらいいなと思うし、それを私が死ぬまでの間に一緒に見つけていきたいと思っています」

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