画家が絵を描くのに合わせ、サックスやドラム、三線といった楽器を演奏。華道家のライブパフォーマンスに合わせ、ドラムやバイオリンが演奏し一つの世界を表現。そんな、アートが生まれるまさにその瞬間に立ち会えるイベントが、2023年2月、香川県高松市のライブハウスで開催されます。

イベントでライブペインティングを行う抽象画家の松山真理さん(写真提供:EMusee)

イベントのタイトルは「Art&Music&Charity Beaux-arts Fes(アート&ミュージック&チャリティー ボザールアートフェス)」。企画したのは、会社員として働きつつアート団体「EMusee(エミュゼ)」の代表を務める飯間絵未さんです。香川県出身で幼い頃からアートに親しみ、美術大学で学んだ飯間さん。地元香川県のアートを盛り上げたいという思いをずっと持っていたと言います。

―飯間さんの経歴を教えてください。
美大に進学してアーティストを志した時期もありましたが、挫折して表現者になることは諦めました。でもアートを鑑賞することがとにかく好きでそれはずっと続けていたんです。大学卒業後は会社員として京都や大阪で働いていましたが、そんなときに東日本大震災が起こって。それを機に地元に近いところで暮らしたいと思うようになり、震災の翌年に香川に戻ってきました。2020年頃から県内のアートイベントの企画や運営に携わるようになり、アーティストさんとのつながりも少しずつできていきました。

松山真理さんとともにパフォーマンスを披露するサックス奏者の國井類さん(写真提供:EMusee)

―昨年、東日本大震災の被災地に行かれたそうですね。
震災があったときは関西にいましたが、身近な友人たちが何人も被災地にボランティアに行っていたんです。それを見て私も何かしなきゃいけないと感じたものの、何をしたらいいのかわからなかった。それからずっと、自分は被災地や被災者に対して何もできていないという“負い目”みたいなものを勝手に持っていたんですね。それが昨年、仕事をきっかけに仙台に行くチャンスができて。震災から10年以上経った2022年2月、はじめて被災地を訪れたんです。

イベントでライブペインティングを行う抽象画家のKuromaさん(写真提供:EMusee)

―今回のイベントは、被災地を訪れたことと関係がありますか?
はじめて被災地を自分の目で見て、いろんな資料も見て、被災者とも話をして。今まで感じたことのない感情が湧き上がってきました。瀬戸内に暮らしていたら絶対に味わうことがない感情だと思います。それで、やっぱりこの被災地の状況をたくさんの人に伝えなきゃいけないと改めて思ったんです。それから香川でどうやってそれを伝えたらいいかを考え始めました。

そんなときに出会ったのが、毎年福島を訪れている華道家の萩原亮大さん。萩原さんの話を聞くうちに、やっぱり私が何かを伝える手段はアートしかないと思い、絵画のライブペインティングや萩原さんの『花いけLive~陰翳礼讃(いんえいらいさん)~』を軸にしたイベントを考えたんです。

華道家の萩原亮大さん。「花いけLive~陰翳礼讃~」でイベントのラストを飾る(写真提供:EMusee)

―参加するのは県内のアーティストですか?
ほとんどは香川をはじめ岡山や愛媛といった瀬戸内エリアで活動しています。彼らに、絵画や音楽を通して“祈り”や“生命”、“平和”を表現してもらうのが今回のイベント。災害が少なく気候の穏やかな瀬戸内のアーティストだからこそ表現できる“祈り”や“生命”、“平和”の形があると思っています。また、ライブパフォーマンスのほかにも、参加アーティストによる作品展示や物販も行います。ライブペイントの作品もすべて購入可能で、その売り上げの一部は香川県の防災のために使う予定です。

Kuromaさんのライブパフォーマンスに合わせ三線と歌を披露するjiu-fa(写真提供:EMusee)

―被災地ではなく香川の防災のためのチャリティーにした理由は?
こういうチャリティーって普通は集めたお金を被災地に送ることが多いと思うんですが、私はそれがちょっとしっくりこなかったんです。被災地の支援はもちろん必要なんですが、ここ香川で、香川のアーティストが行うイベントだから、香川の人のために使うべきだろうって。私自身、そんなに大きなことはできないですから。自分の目や手の届く範囲の人たちの幸せをまず考えたいと思ったんです。

萩原亮大さんのパフォーマンスに合わせて演奏を披露するcowbells(写真提供:EMusee)

―被災地を訪れて印象的だったことはありますか?
驚いたことの一つが、あらゆる場所に防災マップや避難グッズのリストが置いてあること。人々にとって防災がすごく身近なんだなと感じました。一方で香川は災害が少ないから、なかなか自分事にならない。でも、平和な香川だからこそ、いつ起こるかしれない災害のために防災マップを持っていてほしい。そのために、防災のためとか思わなくても手に取りたくなるような、家族みんなで持ちたくなるようなおしゃれな防災マップを作りたいんです。それを香川のアーティストの力を借りて作れたら素敵だと思いませんか。

イベントで作品展示を行うアーティスト、alinksさん(写真提供:EMusee)

―香川のアートについての思いを聞かせてください。
香川県は『アート県』を自称しているくらいだから、もっとアーティストやアート好きな人が増えてもいいし、アートイベントももっと開催されていいと思うけど、実際はそうじゃない。私もそうだったけど、美大や芸大に行きたいと思ったら県外に出なきゃいけないんですよね。それで、出たらなかなか戻って来れない。それでは香川に若手アーティストが増えないし、彼らが活動する場もできない。今回のようなイベントを通して、香川でもおもしろいことをやってるよ、アーティスト活動している人がたくさんいるよということを県外の人にも伝えたい。そして香川のアートをもっと盛り上げていきたいですね。

「Art&Music&Charity Beaux-arts Fes」は、2023年2月19日に、高松市のライブハウスTOONICEにて開催予定です。

この記事の写真一覧はこちら