「鬼は外、福は内」の掛け声で豆をまくのが日本の節分の風習。そうやって家々から追い出された鬼たちに居場所を作ってあげようという発想から始まったイベント「鬼まつり」が、香川県小豆島にある「妖怪美術館」で2月28日まで行われています。

「鬼の避難場所」に展示されている作品。「天狗?」黄建達

鬼が逃げ込む!? 特別展示「鬼の避難場所」

鬼を悪者だと決めつけて排除してしまうのではなく、鬼側の事情にも目を向けて受け入れてあげようという発想から今年初めて企画された鬼まつり。元々、みんなから怖がられる存在の妖怪をテーマとしている美術館だからこその発想です。そしてその裏側には、今世界中に広がる差別や排除、分断といった状況に疑問を投げかける意味も込められています。

鬼まつりの期間中は館内に「鬼の避難場所」を設けています

期間中、館内では特別展示「鬼の避難場所」を実施。約800点の収蔵作品のなかから、鬼をモチーフにした作品を集めて展示しています。また、鬼のコスプレをした来館者は入館料が割引になるほか、期間限定の菓子やドリンクも発売されています。

節分の豆まきで家々を追い出された鬼たちがくつろいでいるような「鬼の避難場所」

妖怪をテーマとした美術館

そんな鬼まつりを開催している妖怪美術館がオープンしたのは2018年。小豆島の土庄町にある「迷路のまち」と呼ばれるエリアを中心に2011年から始まったアートプロジェクトの一環として開館しました。妖怪をテーマとした作品を約800点収蔵し、そのうちの100点余りを展示。館長を務めるのは、自らも妖怪画家として活動する柳生忠平さんです。

妖怪美術館 受付棟の外観(写真提供:妖怪美術館)

妖怪美術館は、受付棟でチケットを購入したら、01号館から04号館まで町のなかに点在する建物を巡りながら鑑賞するめずらしいスタイルの美術館。

「最初は、地域にある古くていい建物が取り壊されていくのがもったいないという気持ちから、空き家を活用するために作品の展示を始めたんです。それらの建物がわりと近いエリアに点在していたので、町のなかを歩きながら周遊するような展示方法にすることを思いつきました」

妖怪美術館 館長の柳生忠平さん(写真提供:妖怪美術館)

01号館の外観(写真提供:妖怪美術館)

2013年から行っている「妖怪造形大賞」では全国からプロアマ問わず多くの作品が寄せられ、その受賞者の作品も展示されています。「妖怪というと怖いとか気持ち悪いと感じる人も多いと思いますが、それだけじゃないのが妖怪の魅力。彼らが持つストーリーとか、愛嬌みたいなものも感じてもらえたら」と柳生さんは言います。

妖怪と神様は紙一重!?

柳生さんが制作活動を始めたのは2005年。最初は「絵描鬼(えかき)」という肩書で活動していました。

美術館の天井画は柳生さんの作品(写真提供:妖怪美術館)

「子どもの頃から妖怪が好きでした。本当にこの世にいると思って、近所の神社や洞窟に妖怪を探しに行っていたんですが、なかなか会えない。だったら絵に描いていたら、気付いて出てきてくれるんじゃないかと思って妖怪の絵を描き始めました。妖怪に会いたい、友だちになりたい、昔も今もその一心で描いています。今では妖怪は僕の代弁者となって、一緒に仕事をする仲間でもあります。『みちしるべぇ』なんかは僕の分身みたいなものですね」

柳生さんが生み出した、迷路の町を案内する妖怪「みちしるべぇ」。町のいろいろな場所で目にすることができます

妖怪美術館には、昔話などに出てくる有名な妖怪だけではなく、スマホの妖怪や電車のなかに現れる妖怪など現代的なさまざまな妖怪の作品が展示されています。
「僕が考える妖怪観というのは、目には見えていないけれど常に気配があって、自分の生活のなかで隣にいる存在のこと。日本には八百万(やおよろず)の神様という考えがあるけれど、それと同じで、いつでもそばにいてくれる存在だと思っています」

「鬼の避難場所」に展示されている作品。「小石鬼」せこなお

「ある研究者が言っていたのが、祀られているのが神様で、祀られていないのが妖怪だという考え方。日本人の『怖いものは祀ってしまおう』という発想で、これまでの歴史のなかで祀られて神様になったものもあれば、ならなかったものもある。妖怪って悪さばかりすると思われていますが、人間の助けになる場合もあるんですよ。そういう妖怪の多面性にも目を向けて、ただ怖がるだけでなく、彼らの魅力にも気付いてもらえたらと思います」

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